Chapter1|OPINION 個々が尊重され、やりがいを感じながら働くことが大切 「幸福度」と「パフォーマンス」の関係に注目 “幸せな社員”が強い組織をつくる 前野隆司氏 慶應義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究科 教授
社員に愛される会社には、どのような特徴があるのだろうか。
幸福学を専門とする慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授の前野隆司氏に、18~24ページの調査結果の総括とあわせて話を聞いた。
“会社との関係性”が会社の好き嫌いを左右
今回の調査において、会社が好きかどうかと比較的高い相関が見られたのは、仕事や職場、事業やサービス、企業理念や経営層、上司やチームに関する項目であった。なかでも相関が高かったのが、仕事や職場の状態。現在の自分の仕事が好きでやりがいを感じている人や、職場の居心地が良く温かい雰囲気に満ち溢れていると感じている人は、会社が好きだと回答している。また、企業理念や経営層、上司は、同僚以上に会社の好き嫌いに影響していることもわかった。
以上のような結果から、仕事への満足度や職場の居心地の良さ、事業やサービスへの愛着、経営層や上司への信頼といった要素が、会社の好き嫌いに影響を及ぼしていることがわかる。これらの指標は“会社との関係”を表す指標であり、その指標同士も互いに相関し合っているといえるだろう。
“個人の生き方”も会社の好き嫌いに影響
会社との関係性が会社の好き嫌いに影響しているということは、ある程度予想されることだといえよう。今回の調査で特に私が注目したいのは、「幸福度」という観点も、「会社が好き」と相関があるという結果が出たことである。
幸福度という指標は、会社との関係性とは異なり、個人の生き方に関係するものだ。組織運営や経営の観点からは、従来あまり触れられてこなかった領域といえるだろう。しかし、社員に愛される会社になるためには、社員が仕事や職場に満足し、上司やチームと良好な関係を保つことができているのみならず、社員一人ひとりが幸せであるべきだということが明らかになったのである。
私が専門とする「幸福学」は、幸せに生きるための考え方や行動を科学的に検証し、実践に活かすための学問である。組織の在り方が大きく変化しつつある昨今、幸福度は組織運営や経営面からも重要な指標になりうる。実際に、幸福度が高い社員は低い社員よりも創造性が3倍高く、生産性も31% 高くなるということが知られている※。詳しくは後述するが、今回の調査でも、個人のパフォーマンスと幸福度には、高い相関が見られた。
つまり、社員一人ひとりが幸せで生き生き働くことは、会社にとっても、社会や個人にとってもメリットが大きいといえるということだ。そもそも人は幸せに生きるべきであるが、あらゆる組織も社員と社会の幸せを最優先することを考えるべきであろう。
※心理学者ソニア・リュボミアスキー、ローラ・キング、エド・ディーナーらの研究。
社員の幸福度を測る意義
幸福度について詳しく解説する前に、まずは「幸せ」について考えてみよう。
幸せには、長続きしないものと、するものがある。長続きしない幸せとは、「お金」や「モノ」、「社会的地位」といった、他人と比較できる幸せである。一方、長続きする幸せとは、愛情や健康、自由など他人とは関係なく得られる幸せである。戦後の高度成長期からバブル期ごろまでは「お金」や「モノ」、「社会的地位」などに幸せを感じる人が多かったが、震災などを経てそれらに本質的な幸せは見いだせないということに気づく人が増えてきたのではないだろうか。