―オルビス株式会社の事例― 新任マネジャーの成長支援プログラム 「マネジメント・キャンプ」 松尾 睦氏 青山学院大学 経営学部 経営学科 教授

オルビスが課長級のマネジャーに昇格する候補者に対して行う「マネジメント・キャンプ」。
マネジメント力の向上を目指すこのプログラムは、「アンラーニング」を促す効果もあるのだという。
経験学習の第一人者であり、青山学院大学経営学部教授の松尾睦氏が、プログラム開発の中心的役割を担ったオルビスHR本部本部長の岡田悠希氏にインタビュー。
プログラムの概要や経験学習の観点で見た特徴について寄稿いただいた。
すべての候補者を昇格させる「マネジメント・キャンプ」

オルビスは、課長級のマネジャーに昇格する候補者に対して「マネジメント・キャンプ」とよばれるプログラムを実施し、マネジメント力の向上につなげている。具体的には、昇格候補者であるアシスタントマネジャー(係長級の管理職)が率いるチームメンバーから意見を集め、その内容をフィードバックして候補者のマネジメント行動を改善するという内容である。

オルビスが本プログラムを始めたきっかけは、「チームの成果が出ない原因の1つに、メンバーと管理職の関係性の問題がある」「メンバーとの関係性をつくれるリーダーを育てたい」という課題意識であった。図1はプログラム全体の流れを示したものである。
プログラムの第1ステップは、マネジメントに関する座学研修であり、昇格候補者はマネジャーとしての在るべき姿を学ぶ。第2ステップは、「すっぴんチームキャンプ」とよばれるアクションラーニング型のプログラムである。具体的には、候補者が一緒に働いているチームメンバーからフィードバックをもらい、自身の課題を解決するという内容であり、月1回90分間で行われる。なお、このセッション後に、候補者は人事スタッフによる1on1のコーチングを通して、課題を解決するうえでの支援を受けることができる。このサイクルが2~3回実施され、候補者とメンバーの関係が改善したタイミングで、第3ステップである「事業課題チャレンジプログラム」に進む。ここでは、チームの業務上の課題を解決し、成果を上げた候補者が、課長級の管理職に昇進することになっている。
注目したいのは、本プログラムは候補者を選抜することが目的ではなく、「すべての候補者を昇格させる」という育成志向の仕組みとして位置づけられている点である。2024年7月に開始された本プログラムの1期生9名は、全員が6カ月で修了し課長級の管理職に昇進している。現在2期生11名がマネジメント・キャンプに参加しているが、たとえ規定の期間で修了できなかったとしても、本人の行動変容へ取り組む姿勢や努力がある限りは、期間を延長して昇格させる方針であるという。
以下、本プログラムの中核に位置づけられている「すっぴんチームキャンプ」について紹介したい。
経験学習理論に基づく「すっぴんチームキャンプ」
プログラム参加者は、①昇格候補者であるアシスタントマネジャー(係長クラス)、②チームメンバー、③ファシリテーターである人事部スタッフである。チームメンバーの数は2~5名程度であるが、2名の場合には関連チームのメンバーが入ることもある。また、昇格候補者とメンバーが共に働いた期間が短い場合や、メンバーの経験が浅い場合には、昇格候補者をよく知る上司が参加することもある。