人と人とのつながりを生むエコシステムを生かし、「挑戦する人材」に目的や方向性を示す 島田太郎氏 東芝 代表取締役 社長執行役員 CEO

2024年に新中期経営計画・「東芝再興計画」を発表した東芝。
2022年に社長に就任した島田太郎氏は、鍵を握る同社の従業員について、「変化を恐れず挑戦する人材がそろう」と評する。
人材を生かすためにも、いま東芝に必要なことは何なのか、話を聞いた。
[取材・文]=村上 敬 [写真]=山下裕之

変化を恐れない人材がそろう会社
―― 直近の経営の状況を教えてください。
島田太郎氏(以下、敬称略)
2024年度は、営業損益が前年同期比約5倍の1,985億円になりました。これは2018年度にメモリ事業を除いた事業ポートフォリオとなって以来、過去最高です。昨年度は中期経営計画・「東芝再興計画」の1年目でしたが、この数字からもわかるように計画は順調といえます。EVは期待ほど伸びていませんが、一方でAIは様々なビジネスが展開されていてさらなる成長余地が生まれています。
東芝がいま力を入れているのは、インフラ、エネルギーの領域で生まれるデータを結合してAIなどで分析・活用すること。東芝は個々の事業が強くて、個々に育ってきた面があります。今後は、これらを有機的につないで新しいサービスを創造していくことに取り組んでいきます。
―― 個々の事業の視点でいえば、縦割り組織によって生まれる「内部硬直性」を課題として挙げていました。
島田
現在、分社会社を東芝本体に統合する作業と同時に、これまでになかった人材交流やコミュニケーションの場を提供しています。こうした変化をポジティブに捉えている社員の皆さんは多いと感じています。
―― 歴史のある企業は保守的になりがちです。社員の意識改革をどのように促していますか。
島田
いや、東芝の従業員は非常にフレキシビリティが高くて驚いています。私は外資系で長く働いてきましたが、当時の仕事をしていた日本のお客様は、ご指摘のとおり保守的な傾向があって、これまでのやり方を崩してもらえなかった経験が多々ありました。一方、東芝の従業員は従来のやり方に固執せず、ゼロからつくり直すことを恐れたりしないのです。

たとえば画像認識用半導体の開発では、以前は専用のツールやソフトウェアを使っていたのですが、それでは難しいことがわかると、プロセッサーのコアを他社製のものに載せ替えました。経験則上、日本の会社で、自前で開発したコアを載せ替える大胆な判断はなかなかできないものです。
インフラでもいくつか問題があって、OSをマイクロソフトからLinuxに替えたことがありました。ただ、Linuxも脆弱性やリアルタイム性に課題がありました。そこで東芝がコンソーシアムをリードして、インフラ用のOSのコード自体を書き換えて公開。長期的にLinuxを使い続けられる環境になりました。問題があるならOSから書き換えてしまうという会社を、私は日本で見たことがありませんでした。