調査レポート「第1 回大学教育力向上に関する調査」結果 問われる大学の存在意義 学力低下に対する取り組みが明らかに
大学は、社会で高く評価される人材を輩出する機能を期待されている。かつて終身雇用制が当たり前だった時代は、企業には時間と費用をかけて新卒者を教育する余裕が十分にあったが、現在では難しくなってきている。企業に入社する以前に、大学で社会人としての基礎力をしっかりと身につけて欲しいという声が切実である。しかし、学生自身の価値観も変化した。さらに学生の学力低下も問題になっている。大学側は企業のニーズに応えるべく、教育力を向上させるために何らかの施策を実施しているのであろうか。どのような施策が、どのような優先順位で実施され、どこまで成果を上げているのであろうか。その実態を知るために、日本能率協会学校経営支援センターと大学行政管理学会が共同で、全国の710 大学を対象として「第1回大学教育力向上に関する調査」を実施した。調査は郵送アンケート方式で行い、324 大学(国立50、公立43、私立230、株式会社1)から回答が得られ、有効回収率は45.6 %であった。その結果に基づきながら考察していく。
14 の教育力向上分野の実施度、機能度、重要度を調査・分析
ひと口に大学の教育力といっても、その対象となる分野は多岐にわたる。調査に先立ち、私たちは大学において教育力を向上すべきであるとされる分野を学生の置かれるステージや教育場面別に15に整理した。ここではこれを「教育力向上分野」と称する(図表1)。
そして、各分野で実際に行われていると思われる教育施策を、研究メンバーの所属する大学およびすでに報告されている先進事例から洗い出し、汎用的と思われる78の教育力向上施策を選び出し、今回の調査設問としてそれぞれの実施度、機能度、重要度について尋ねている。
ただし、この15の教育力向上分野のうち、「教育手法」の分野については現段階では汎用性が乏しいと判断し、設問を設定していない。調査結果はこれを除いた14分野について、集計および分析したものである(図表2)。
14分野の78施策について、それぞれの実施度を「全学部で実施」(3点)、「半数以上の学部で実施」(2点)、「半数未満の学部で実施または試行中」(1点)、「未実施」(0点)の4段階で各大学に回答してもらった。また、機能度については以下の5段階評価で自己評価してもらった。「機能していない」(1点)、「あまり機能していない」(2点)、「機能しているが改善点が多い」(3点)、「有効に機能している」(4点)、「他大学の模範となるレベルにある」(5点)。未実施のために回答不可という場合は、対象外となる。
遅れが目立つ学生への学習支援と教員の授業力向上施策
図表3は、施策実施度の平均点が高かった分野と低かった分野、さらに機能度の自己評価の平均点が高かった分野と低かった分野を比較したものである。「資格教育」「専門教育」「キャリア教育」の分野では実施度、機能度の評価とも高い。この3つの分野が今、時代の要請に合う教育力向上の重点施策であるとして、各大学が熱心に取り組んで所定の成果を収めたということであろう。
一方、「学習支援」「FD ・授業力向上」「教育力向上マネジメントシステム」については実施度、機能度の評価とも低い。「学習支援」とは、「学習ポートフォリオ、学習カルテ等による学習状況の把握」「TA(ティーチング・アシスタント)等の活用による授業支援」「チューター、学習アドバイザーによる学習支援」など、成績が一定レベルに達しない学生や、何を学んだらよいかわからない学生を支援する諸施策である。この分野の実施度、機能評価ともに低いということは、学力の低い学生の底上げが進んでいない実態を表している。企業側から見れば気になる問題点であろう。
「FD」は「ファカルティ・デベロップメント」の略で、「大学教員資質開発」などと訳される。今回の調査項目にあげた具体的な施策としては、「授業公開」「授業評価」「インストラクション(講義方法)教育」「成績の評価基準の明確化」など9施策がある。文部科学省では、まず大学設置基準の中で、学部段階でのFD を努力規定化し、次いで2007 年4 月からは、大学院のFD を規定化した。大学院設置基準の中で「大学院は、当該大学院の授業及び研究指導の内容及び方法の改善を図るための組織的な研修及び研究を実施するものとする」としている。