第38回 現状を否定し、新しいことにチャレンジし続ける やりたいことをやれる環境づくりが人事の使命 吉田 元氏 イオンリテール 人事総務本部 人材育成部長
イオングループのGMS(総合スーパー)事業の中核を担い、「イオン」「イオンスタイル」などを展開するイオンリテール。
同社の人材育成のリーダーである吉田元氏は、多様な現場経験を積み、常に人のやる気や思いを引き出しながら仕事を成し遂げてきた仕掛け人だ。
吉田氏の主導で、同社はAIやVRなどユニークな社員教育も展開している。
「やりたいことをやる」ことを大切にし、社員にも叶えてほしいと語る吉田氏のキャリア変遷とは――。
[取材・文]=平林謙治 [写真]=中山博敬
世界初! AI笑顔トレーニング導入
接客の基本は笑顔と挨拶。イオングループの総合スーパー(GMS)事業の中核を担うイオンリテールは今年7月より、従業員の接客教育にAI端末「スマイルくん」を用い、笑顔・発声トレーニングを強化している。同社ではかねて笑顔と挨拶の訓練を実施してきたが、人によって基準が異なるため、全体の一律化やレベル向上を図るのは難しかった。そこで人材育成DX製品を手掛ける業者と協力して「スマイルくん」を開発。約240店舗に導入した。
「スマイルくん」に向かって挨拶をすると、AIが笑顔の特徴や声量、滑舌などをリアルタイムに分析し、即座に点数化・フィードバックするため、従業員は笑顔と発声の改善にゲーム感覚で取り組める。
「店舗の皆さんには毎朝出勤時に実施してもらっています。お店で笑顔トレーニングにAIを使う取り組みは世界初なんですよ」
そう語るのは発案者で、同社人事総務本部人材育成部長の吉田元氏。今回の“成長の仕掛け人”である。
「常に現状を否定し、新しいことに果敢にチャレンジする」を信条とするだけに、他にも斬新な施策を次々と推し進めている。国内小売で初めてVR(仮想現実)技術を全店舗の従業員教育に導入したり、ダイバーシティの研修を個人が識別されないメタバースのプラットフォーム上で展開したり、その発想や行動力は、人事パーソンの枠に収まらない。
「確かに私は人事らしくない人事かもしれません。HRに限らずどの分野でも、現場のために、そして自分のやりたいことをやりたいようにやりたい―― その思いだけで走り続けてきましたからね(笑)」
毎日が学園祭! 仕事の面白みを知る
しかし、社会人としてのスタートは必ずしもやりたいように、とはいかなかったようだ。吉田氏は1993年、イオンリテールの前身であるジャスコに入社。就職活動では当初、SEを目指してシステム会社を志望したが、バブル崩壊の影響もあり、苦戦を強いられた。同社への入社も、システム関連の部署に配属されればと希望してのことだったという。