CASE2 兼松|受講者の声を聞きながら、納得感を高める実践的プログラムへ 経営のメッセージを施策に落とし込み企業内大学を軸に仕組みの見直しを続ける 塚本達雄氏 兼松 人事部 人材開発課長 他
創業135年を迎えた兼松。
商社の王道であるトレーディングに強みを持つが、現在はトレーディングのみならず事業投資など時代に合わせた形で事業を展開。
2024年3月期連結最終利益は過去最高の232億円を計上し、攻めの事業戦略の成果がさっそく表れ始めている。
近年の成長を下支えしているのが、企業内大学である「兼松ユニバーシティ」(KGU)を中心とした研修教育体系だ。
スタートして5年目を迎えるKGUは、さらなる進化を目指して変革の最中にある。
これまでの流れと目指す将来像について話を聞いた。
[取材・文]=村上 敬 [写真]=編集部
中期ビジョンで明確化された課題
老舗商社の兼松が攻めに転じたのは、10年前の2014年からだ。バブル崩壊後の不況の影響等で99年に構造改革に着手し、財務基盤が改善されてきたところにリーマンショックが発生。耐え抜いてようやく15年ぶりに復配に至ったのが2014年だった。
攻めの姿勢に転じるなかで策定されたのが、19年3月期からの6カ年の中期ビジョンである「future135」である。この中期ビジョンで同社は既存事業で付加価値の創出や規模の拡大を目指しつつ、イノベーション投資で種まきをする方針を打ち出した。当時、経営企画部で兼松ユニバーシティ(以下、KGU)設立に関わった人事部給与厚生課長の藤川知明氏は次のように解説する。
「兼松も他の大手商社と同じように資源系など多くの事業を手掛けていた時期がありましたが、構造改革で全方位経営を改め、兼松が強みを有する4分野に事業を集中させました。そして、さらなる規模拡大や成長のためには、当社の事業に紐づいた分野で投資を行い、トレーディングと両輪で進めていく必要があると考えました。既存のビジネスに新たな付加価値を創出する戦略が必要で、その流れがこの中期ビジョンで明確になりました」
ここで課題として浮上したのが事業投資と経営に求められる知見やスキルだ。それまでもトレーディング主体のビジネスを念頭にOJTや階層別研修、ビジネスプラン研修で社員教育を行っていたが、事業投資とその遂行に求められる経営の知見やスキルについては特別な教育の仕組みが用意されていなかった。
そこで経営人材を育成する必要性から、まず17年に「経営者育成研修」をスタートさせた。これは部長以下が対象で、期間は10カ月。最初は次の経営層候補である部長から始まったが順に下の層に降り、現在は若手が受講している。
経営人材の育成に向けて動き出したが、これだけでは必ずしも十分ではないという認識もあった。
「経営者育成研修は次世代の経営者候補の育成が目的であり、グループワークなどの実践的なカリキュラムが中心でした。また、徐々に受講対象層を拡大していたものの、マネジャーになる前の早い段階から経営人材の育成に着手した方がいいという考えもありました。そこで、入社1年目から経営に必要な細かな知識やスキルを身につけられるようにしようと、教育体系を全面的に見直し、企業内大学をつくることにしたのです」
企業内大学を中心に教育体系を再編
設立当初のKGUの受講対象は、新卒入社から10年目までの社員。1~3年目は「ベーシックコース」、4~7年目は「アドバンスコース」、8~10年目は「プロフェッショナルコース」で、各コースに修了の必要単位がある。たとえばアドバンスコースなら23単位を取得しないと修了できず、次のプロフェッショナルコースに進めない。
目指すゴールは、「次期経営者(グローバルリーダー)として、事業の創造者、および経営者としての見識を身につけ、実際の業務で経営者として経営を任せられる状態」になること。ただ、カリキュラムには、経営人材の育成だけでなく、実務的な基礎知識など、これまで若手・中堅向け研修で行っていたものも内包し、拡充されている。また、若手を対象に実施されていたビジネスプラン研修もKGUのなかに組み込まれた。
制度設計には、外部のコンサルティング会社を活用。相談しながら、経営人材として10年目までに習得すべき知識やスキルを洗い出した。