OPINION2 教育体系とは、従業員の思いと会社の方向性を合わせる「羅針盤」 現場を巻き込み浸透させる教育体系の構築・見直しのポイント 有馬祥子氏 三菱UFJリサーチ&コンサルティング コンサルティング事業本部 組織人事ビジネスユニット HR第4部 マネージャー
企業を取り巻く様々な変化を背景に、「教育体系の構築・見直しの重要度が高まっている」と話すのは、三菱UFJリサーチ&コンサルティングの有馬祥子氏。
様々な企業の教育体系構築を支援している有馬氏に、教育体系の重要性や、社内で活用される教育体系を構築するためのポイントなどを聞いた。
[取材・文]=増田忠英 [写真]=三菱UFJリサーチ&コンサルティング提供
教育体系の重要度が高まっている5つの背景
「企業の理念や戦略を実現できる人材を育成するために必要となるもの。企業の経営戦略や人事戦略に基づき、求める人材像、必要なスキル、その習得方法の3つを整理し、明文化したもの―― 。それが教育体系といえるでしょう」
企業内人材育成のコンサルティングや階層別研修を行う三菱UFJリサーチ&コンサルティングの有馬祥子氏は教育体系の定義をそう説明する。
人材育成のPDCAサイクルを回すうえでも、教育体系は欠かせない。「教育体系の構築(P)、教育・研修の実施(D)、教育効果・育成成果の検証(C)、教育・研修の改善(A)というサイクルの始まりに当たります(図1)。教育体系を整備すれば、人材育成の土台となる考え方や教育研修の目的、社員に習得してほしいスキルが明確になるため、目的に即した教育メニューを選択でき、効果検証もしやすくなります」
近年、教育体系を見直す企業が増え、その注目度が高まっている。その背景として有馬氏は、以下の3点を挙げる。
①事業環境の変化
この数年を振り返っただけでも、新型コロナウイルス感染症の拡大、世界各地での紛争、AIの進展など目まぐるしい変化が起きている。まさに「VUCA」が加速したような環境に柔軟に対応し、事業を創造変革できる人材の育成が求められている。
②働き方の変化
コロナ禍以降、テレワークが急速に普及し、コロナ収束後もテレワークを継続したり、出社を基本としながらテレワークを併用している企業が多い。このような状況のなかで、働き方の変化に対応した教育体系が求められている。
③学習方法の多様化
コロナ禍収束後、対面型の研修を復活させた企業が増えた一方で、オンライン研修も一定の需要がある。また、サブスクリプション型のeラーニングも浸透している。多様な学習方法のなかから最適な方法を選択できる環境が必要となっている。
この3点に加え、④人手不足による採用難や⑤人的資本経営やその開示についての社会的要請が、教育体系の重要度をいっそう高めているという。