「パフォーマンスにつながる 学習設計」
日進月歩で進化し続けるITは、人材開発の方法やインストラクショナルデザイナー(IDer:教育企画者)の役割をも大きく変えつつある。
IT を用いた人材開発の最新動向と、今後の人材開発部門やIDer の役割について、IDの第一人者であり、海外の人材開発の動向にも詳しい中原孝子氏に聞いた。
パフォーマンスへのフォーカス
今、世界中のCEOが最も脅威と感じているのが、テクノロジーの進化の速さです。その進化をいち早くキャッチアップしていかなければ、今後のビジネスは成り立ちません。そうしたビジネスアジリティ(俊敏性)の向上は、多くの企業にとって喫緊の課題でしょう。
そんな中、人材開発の分野でも、ラーニングと業務のパフォーマンス(成果)をいかに早く結びつけるかが、最大の課題となっています。
特に重要になるのは、「求められるパフォーマンスに対して、どのような手段を取ることが最も効果的なのか」ということです。
なぜ生かされ“ない”かが重要
「効果」という時、個々の研修自体の効果、行動変容の度合いや投資対効果(ROI)を測ろうとする方が多いと思います。しかし、それをはっきりと否定しているのが、ウエストミシガン大学のロバート・ブリンカーホフ名誉教授です。人材開発に関する世界最大の組織であるATD(Association for Talent Development)が2015 年10月に台北で開催した「アジア・パシフィック・カンファレンス2015」で、ブリンカーホフ教授は次のような発表を行いました。
「研修で学んだことを業務で試みて有効な結果を得た人が受講者全体の20%だとした場合、残りの80%にかけた研修コストは無駄になったことになる。したがって、従来のようにROIや行動変容といったベストプラクティスだけを追うよりも、なぜ研修での学びが業務に生かされ“なかった”のかという点に着目して改善を行い、生かされるような設計や支援をしていかなければ、研修の効果にはなり得ない」―この考えに私も共感します。
ブリンカーホフ教授は、研修の目的(業務上の必要性)の明確化や、KPI(組織活動や成果達成プロセスを客観評価するための指標)との整合を取ったうえで、どのような育成施策を行い、その後に何をするのかといったところをシームレスに設計しなければ、最終的なラーニングインパクトは出せないと述べています。
これには当然、現場のマネジャーの取り組みが重要になります。
というのは、まず、マネジャーに対する教育を行い、KPIの設定方法などを理解してもらったうえで、マネジャーと学習者本人の間で、具体的な成果を出すまでの“インパクトマップ”(道のり計画書)を作成します。そのうえで学習プログラムを実施し、マネジャーと本人とで行動計画を作成させ、実行に対する現場でのフォローアップを緻密に行っていく必要があるのです。
この仕組みを真に実現するには、KPIを可視化し、学習の結果や現場での経験からどのような影響が出ているかを確認できるシステムが必要です。しかし、従来のLMS(学習管理システム)では、研修や会社主導のeラーニングといった“フォーマルラーニング”しか追えません。現場で起こる学び合いなどの“インフォーマルラーニング”も含めて成果への影響を把握できるようにしなければ、人材開発部門やIDerは、育成策に投資すべきか、現場を改善すべきかを判断しにくいわけです。