OPINION2 鍵はキャリアへの内省と、仕事における意味づけ 副業経験をプラスにするため個人と組織にできること 伊達洋駆氏 ビジネスリサーチラボ 代表取締役
自己実現やキャリア自律の文脈で効果が語られることが多い副業だが、管理の煩雑さや離職リスクなど、副業を不安視する声は少なくない。
企業の副業解禁は、組織と社員にとって“いい選択”となり得るものなのか。
昨今の副業を取り巻く状況と、メリットをもたらす副業の在り方について、ビジネスリサーチラボ代表取締役の伊達洋駆氏に、解説いただいた。
[取材・文]=たなべ やすこ [写真]=伊達洋駆氏提供
「良い会社」は副業を遠ざける
働き方改革や新型コロナウイルスによるパンデミックを経て、これまでアンダーグラウンドだった副業にもスポットが当たるようになった。副業に関する調査は様々あり、たとえばパーソル総合研究所が2023年に行った調査※では、社員の副業を容認する企業は6割を超える。
だが世論の盛り上がりとは裏腹に、実際の動きは鈍い。同調査によれば、副業を行う正社員の割合は7.0%程度。他機関の調査でも10%程度にとどまる。その理由をビジネスリサーチラボ代表取締役の伊達洋駆氏は、次のように分析する。
「ひとつは手続き上の煩雑さがありますね。たとえば副業先と雇用関係を結ぶとなると、本業の所属先と労務面での調整が必要。その面倒臭さから、副業を行うことを敬遠してしまうことが考えられます。もうひとつは、時間的な問題。長時間労働は是正されたものの、副業するほどの余裕はないというところでしょうか。プライベートの時間も確保したいでしょうから、忙しくて副業ができないという人は少なくないでしょう」
一般に副業の需要があるのは、多様なスキルや高度な専門性を持ち合わせた、いわゆるハイパフォーマーである。実はここに、副業が進まない落とし穴があるという。
「仕事ができる人というのは、本業でも活躍できているわけですよね。要はいろいろな仕事や責任のある業務を任されていて、勤務時間が長くなりがちです。本業で手いっぱいで、副業まで手を広げられないという人は意外と多いはずです」
加えて本業で本領を発揮できている人は、会社に愛着があったり、仕事に満足しているケースが多い。そのため、会社の外の世界にあまり関心が向かず、そもそも副業をしようという発想にならないという。
「本来ならば会社側は、活躍人材にこそ会社の外でも能力を発揮し、新たな知見や人脈、経験を本業に持ち帰って来てほしいと考えるのではないでしょうか。キャリア自律のロールモデルとしての期待もあるでしょう。しかし皮肉なことに、優秀な人材ほど、本業で働きがいを感じ、副業意欲がわかないという難しさがあるのです」
※ 「第三回 副業の実態・意識に関する定量調査」(パーソル総合研究所)
内省と経験の意味づけが消耗する副業を回避する
一方、副業容認の会社が増えているのは、前述のように、新たな知見や人脈、経験を本業に持ち帰ってほしい、そして新たなアイデアやイノベーションにつなげてほしいと考えているからだろう。副業から得られるものはたくさんある。
「副業には、スキルセットの拡充や、新たな人脈、限られた資源で成果を上げるための管理能力、新しい情報や発想など、広がりのある資源を獲得できるメリットがあります。本業とは別の環境で揉まれひと皮むければ、本人にとっては自信となるし、副業をすることで本業での主体性が高まることは、副業の効果として研究でも明らかにされています」
一方で、このような「プラスになる副業」ばかりではなく、「マイナスになる副業」もあると伊達氏は警鐘を鳴らす。マイナスになる副業とは、「資源を消耗する副業」のことだ。
「副業を始めると、まず時間の壁にぶつかります。さらに体調を崩したり家庭不和が生じたりと、時間以外の資源まで消耗するようなケースもあります。このような『消耗する副業』は避けなければなりません」