CASE3 ロート製薬 キーワードは「社員の成長を信じる風土」 副業・兼業制度がもたらした 社員の“意識”変革 河崎保徳氏 ロート製薬 広報・CSV推進部 部長
社員の自律的なキャリア開発を促す施策のひとつとして考えられるのが、副業制度である。
自社のみならず社外で幅広い経験を積むことで、自身のキャリアを拡げていくことができ2016年、大手企業に先駆けて副業制度を導入したのがロート製薬だ。
その背景や、導入の効果について話を聞いた。
若手の意見により制度が実現
大手企業のなかでいち早く「副業制度」を導入したロート製薬。具体的には一般的な副業制度を「社外チャレンジワーク」、所属する部署に籍を置きながら他部署の仕事も担う社内兼業制度を「社内ダブルジョブ」として運用しており、社外チャレンジワークは現在約80人が、社内ダブルジョブは約60人が行っている。
導入のきっかけは、若手社員が自発的に立候補をして参加する「明日のロートを考える= ARKプロジェクト」だった。
「3~4年に一度、会社が提示するテーマに対して手を挙げた若手社員に、10カ月ほどの期間で検討してもらうプロジェクトです。これから長く会社に在籍する若い社員たちが真剣に会社の未来を考える場が必要だろうということでスタートしました。2014年に『社員がもっとも早く成長するために、会社はどんな応援をしたらいいか』というテーマについて話し合ってもらって出た結論のひとつが副業と社内兼業の要望でした」(広報・CSV 推進部部長の河崎保徳氏、以下同)
「自身のスキルを役立てたい」「社外でネットワークをつくりたい」「社外でも通用するスキルを身につけたい」―。そんな若手社員の成長への思いに経営陣が応え、2016年2月に新制度が発表された。
「会社側からはこんな提案は出てきません。賛否両論ありましたが、若手からの提案ということもあり、新しいことが起こる可能性に期待し、弊社の新コーポレートアイデンティティ『NEVER SAY NEVER』(不可能は絶対にない)を実現する施策として導入しました。何でも“とりあえずやってみよう。やりながら修正していけばいいじゃないか”という会社の風土も後押ししましたね」
社内に眠る資源を社会貢献に生かす
さらに制度実現の背景には、震災の経験があると河崎氏は話す。大阪に本社がある同社は、阪神・淡路大震災を経験し、東日本大震災でも復興支援を行った。
「復興支援で現地に入り、社会の役に立つことができなければ、会社の存在価値はないのではないかと考え直しました。会社経営の真の目的は“社会に役立つこと”であり、“お金やビジネス”は結果にすぎないと本来の会社理念に気づいたのです。会社には社会に役立てる資源が眠っているのではないか。社員一人ひとりのスキルや経験、人脈を生かしていくことは、大きな社会貢献につながるのではないかと考えました」
昔は会社の資源というと利益につながる特許や技術などだったが、社員一人ひとりこそが重要な資源であり、その資源を会社で囲っておくのは、社会貢献に反するのではないか。社員のスキルを社会に還元すべきだと気づいたという。
「ボランティアをとおして、人の役に立つ喜びを実感した社員も多いです。会社で失敗ばかりの社員が被災地でPCスキルを発揮して感謝される事例もあり、会社で何気なく使っているスキルは外でも役に立つということを震災の応援をとおして知ることができた。そういう意味でも、若手から希望が上がった副業・兼業の解禁には、明確な意味と可能性があると思いました」