OPINION2 キャリア自律より変化適応力 ミドル・シニアは「もらい火」型で働く意欲に火をつける 小林祐児氏 パーソル総合研究所 上席主任研究員
ポストオフや定年までのカウントダウンが始まる50代社員は、否が応でも自分のキャリアについて考える時期だ。
キャリア自律が注目されるなかで、自分の将来をどのように設計すればいいのか悩んでいるミドル・シニアも多い。
迷える50代社員に対して、人事はどのような支援を行えばいいのか。
ミドル・シニア層の活性化に詳しいパーソル総合研究所上席主任研究員の小林祐児氏に話を聞いた。
[取材・文]=村上 敬 [写真]=パーソル総合研究所提供
50代の多くは一般社員
ひと口にミドル・シニアといっても、対象になる年齢層は広い。パーソル総合研究所では、40~54歳をミドル、55~69歳をシニアと定義。50代はミドルとシニアにまたがる年齢層であり、ミドル・シニアと厳密には一致しないものの、ミドルというと中間管理職層という役職層と混同されやすいため、本稿ではミドル・シニアと表現することにする。
さて、ミドル・シニアは現在どのような状況に置かれているのか。同じ年齢層でも、時代背景によって組織のなかでの役割や位置づけは異なる。令和時代のミドル・シニアについて、パーソル総合研究所上席主任研究員の小林祐児氏に解説してもらった。
「今の50代は、日本の経済停滞のあおりをもっとも食らった世代です。90年代初頭までの日本企業は、役職を無限に増やすことができました。マネジメントすべき部下がいなくても、『あいつは頑張っているから』と、課長補佐や担当課長といったポストをつくって報いたわけです。しかし、バブル崩壊後、組織のフラット化が流行ってポストが激減。管理職、そして幹部になれるのはごく一部の人だけであり、多くは一般社員のまま50代を迎えています」
管理職になれなかっただけではない。組織のフラット化と同時に起きていたのは賃金のフラット化だった。
「今のミドル・シニアが就職した80~90年代初頭と比べると、今のミドル・シニアは昔ほど賃金が上がっていません。一方で、日本の経済停滞によって消費者としてもあおりを食らっており、かつて思い描いていたミドル・シニアの生活とはかなりの乖離が生じています。さらに高年齢者の雇用安定法で70歳まで働く時代になり、『あと20年、自分はどうやって稼げばいいのか』と迷っている人は多いと思います」
実は、この状況は企業にとっても悩みの種である。団塊ジュニア世代を含むミドル・シニアは人数が多い。人数が多ければそれだけ人件費がかさみ、経営を圧迫する恐れがある。
「ミドル・シニアが全員70歳まで会社にいたら困るというのが経営者の偽らざる本音。とはいえ、雇用安定法で希望があれば再雇用せざるを得ないし、賃金フラット化で賃金を抑制すれば優秀な社員から辞めていきます。これから起きるのは、60歳定年以降の再雇用における処遇のメリハリ化です。残ってほしい人には高賃金、本音では残ってほしくない人は低賃金で処遇して、総人件費をコントロールする動きが強くなることが予想されます」
企業が「キャリア自律」を促す真の狙い
優秀ではないミドル・シニアは、会社から自主的に去ってほしい―― 。そうした思惑を持つ企業が推し進めるコンセプトがある。「キャリア自律」だ。
「会社に依存せず、自己実現のためにキャリアを設計しようという考え方は、若い世代を中心に広がっています。このトレンドに、外に出る選択肢をミドル・シニアに検討してもらいたい企業の人事が乗っかった。社員にやりがいを見つけてもらいたいというのは建前で、社外転職を促すことが裏の狙いです」
しかし、この施策が経営の思惑通りに効果を発揮しているとは言い難い。パーソル総合研究所の「従業員のキャリア自律に関する定量調査(2021年)」で、次のような結果が出た。「自分の市場価値は低い」と自己認知している中高年(40~50代)のうち、キャリア自律度が高い層と低い層の「転職意向」を比較したところ、キャリア自律度が高い層の方が転職意向は低かった。一方、自分の市場価値は高い」と自己認知している中高年は、キャリア自律度の違いが転職意向にあまり影響しなかった(図1)。つまり市場価値の低い中高年のキャリア自律を促進すると、社外に出るどころか、むしろ会社にしがみつく方向にマインドが強化されるのだ。