NTT東日本とNECが挑戦する 越境体験を活用したビジネスリーダー育成 ~新規事業創出プログラム“√N”~ 松前貴洋氏 東日本電信電話 総務人事部 人材開発部門 HRキャリアデザイン担当 課長 他
ビジネスリーダー育成に関する取り組みにおいて、悩みを抱えている企業は多い。
「HRカンファレンス2024春」において2024年5月23日に行われた特別講演では、NTT東日本(東日本電信電話)とNEC(日本電気)が協働で取り組んだ「越境学習を活用したビジネスリーダー育成プログラム」が紹介された。
NTT東日本の松前貴洋氏、NECの藤井直人氏、そしてプログラム設計から実施まで支援したJMAM(日本能率協会マネジメントセンター)の渕上耕平が登壇した講演内容を紹介する。
[取材・文]=田中 健一朗 [写真]=日本の人事部提供
人材育成プログラムが2社協働で実施された背景
渕上
まずは、2社の人材育成戦略、そして協働でビジネスリーダー育成プログラムを実施した背景についてお聞かせください。
松前
NTT東日本(東日本電信電話)では、『地域循環型社会の共創』をパーパスに掲げ、既存事業である通信インフラ事業とICT事業を進化させつつ、地域の未来を支える新しい価値創造を行う事業に積極的に取り組んでいます。そのパーパスを実現するための人材育成理念として『つなぐDNA』を掲げています。当社の事業内容であるネットワークをつなぐこと、人と社会をつなぐこと、そして技術・ノウハウを次代へつなぐこと、という3つの想いを込めています。
藤井
NEC(日本電気)では、NEC Wayの1つであるパーパス『安全・安心・公平・効率という社会価値を創造し、誰もが人間性を十分に発揮できる持続可能な社会の実現』のために多様なタレント人材の活用が必要だと考えています。そのため、ビジネスリーダーやピープルマネジャーの育成と組織カルチャーの変革を並行して進めています。
松前
協働でプログラムを実施した一番の理由は、両者の人材育成に対する想いが一致したことだと思います。
まず当社の想いとしては、通信インフラ企業、ICT企業として地域の課題解決や価値創造を行うことが存在意義だと思っています。そのために自ら考え、方向を決め、そして最後まで力強くやり遂げる「信念のある人材」を数多くつくっていきたいという想いがあります。
元来、当社には通信インフラを支えるという強い使命感を持っている社員が数多くおりますので、そういった主体性や挑戦心は大事にしながらも、自ら考えて行動できる要素をさらに身につけてもらうことによって、将来を切り拓いていくような真のリーダー人材になっていくのではないかと考えています。
藤井
育成の根幹にあるのはやはりパーパスです。また、当社を取り巻くビジネス環境は大きく変化しています。高性能製品をただ生み出すだけで勝てる時代ではなく、これまで培ってきた技術アセットを軸に新しい付加価値を創出する必要があります。これらの実現に向けてもっとも重要なピースも「人」です。もちろん、自社都合で物事を推し進めるだけではなく、顧客、市場の本質的な価値を理解して、未来に向けてステークホルダーと一緒に社会実装できるリーダーを生み出したいと考えています。
その点において、NTT東日本さんと当社の想いを並べてみると、多くの共通項がありました。①主体性・挑戦性を尊重し、自らの意思で能力開発をはかる人材づくり、②物事の本質を捉え、社会価値を創造し続けられる人材づくり、③次世代を担うリーダー人材育成の加速―― 。
こうした共通する想いがあるなかで、とあるご縁があり、両社協働でリーダー人材育成プログラム「√N」(ルートN)を立ち上げることになりました。
プログラム実施に至るまでの4つのステップ
藤井
プログラム化に至るまでに3カ月程度の時間を要しました。まず、「議論スタート(STEP1)」では、両社を取り巻く状況の整理と目線合わせを実施し、「将来を取り巻くビジネスの状況」「将来の経営環境から逆算すると、どのような組織、人材が必要か?」「パーパスに照らして今すべきことは?」について、複数回にわたり議論をしました。
次に、「キーワード抽出(STEP2)」により、両社の実現したいことの言語化を、「創造性」「スピード感」「共創」のキーワードを軸に行いました。
さらに、「プログラム化(STEP3)」では、やりたいことを実現できる項目は何なのか、効果的な順番、どの程度の期間でそれを行うのか、を議論しました。
特に、STEP2~3では、JMAMさんの「越境学習」を通じたイノベーション創出などの豊富な知見からご支援いただきました。
最後の「ターゲット選定(STEP4)」では、管理職登用前後の層にターゲットを絞りました。理由としては、前例にとらわれない思考と健全な熱意を持っていることに加えて、何よりも5~10年先の未来を最前線で担う立場だからということです。最終的には、各社の切り口で人材を選出しました。