OPINION1 副業で高まる自己効力感が、イノベーションにつながる 成長と貢献の鍵は副業経験のナレッジシェア 川上淳之氏 東洋大学 経済学部 経済学科 教授
副業を解禁する企業が増えているが、副業での経験を本人のキャリアアップや本業に活かしているケースはまだまだ少ないようだ。
副業を従業員や企業にとって価値あるものにするにはどうすればよいのか。
東洋大学経済学部教授の川上淳之氏に聞いた。
[取材・文]=増田忠英 [写真]=川上淳之氏提供
国が副業を推進するなか副業を持ちたい人が増えている
日本では、労働法などで副業が禁止されていたわけではないものの、以前は慣行として就業規則などで副業を禁止する企業が多かった。しかし、2017年、第2次安倍内閣が打ち出した「働き方改革実行計画」で、副業推進の方向に方針が転換された。それに伴い、翌年には厚生労働省が示す「モデル就業規則」が副業を禁止から認可する内容に改定され、副業に関するルールが整備されてきた。国が副業推進に転換した狙いについて、東洋大学経済学部教授の川上淳之氏はこう語る。
「働き方改革では、副業を通じて社外の知見やネットワークを活かし、イノベーティブな人材になることが労働生産性を高めるという観点から副業が推進されてきました。現在の岸田政権では、副業推進の狙いとして労働移動の円滑化が掲げられています。週休3日制を選択的に導入するケースで副業を同時に認めたり、副業の経験をリスキリングに活かすことなども推進しています」
上場企業を中心としたCSR調査(東洋経済)によれば、副業を認める企業は2017年の段階で約17%だったが、現在は半数を超えている。働き方改革によって増え始め、その後の新型コロナウイルスの流行により、さらに解禁する企業が増えたという。
一方、副業を持つ人は増えているのだろうか。川上氏が総務省の「家計調査」を基に世帯主の副業率を計算したところ、0.5~1%程度だった副業率は、働き方改革の推進や新型コロナの流行によって2倍以上に高まり、新型コロナが収束した2022年頃からは横ばいで推移しているという(図1)。また、総務省が5年おきに実施する「就業構造基本調査」で直近の2022年と2017年を比較すると、副業がある人は約60万人増えて305万人、副業を持ちたいと思っている人は約93万人増えて493万人となっている。
「副業が認められるようになったため、副業を持ちたいと考える人が増えているようです。そのなかには、物価高などを背景に収入を増やす目的で副業をしたいと考える人も多いのではないかと思います。ただ実際には、時間に余裕がなかったり、周囲に副業をしている人がいないなどで、なかなか踏ん切りがつかない人が多いことが、実際の副業率が横ばいになっている理由かもしれません」
副業を始める際はキャリアや家庭への考慮を
副業は労働者や企業にどのようなメリット/デメリットをもたらすのだろうか。川上氏は、まず労働者にとっての副業のメリットとして、余暇の選択肢が広がる点を挙げる。
「もともと余暇は自分で自由に使える時間のはずですが、それが以前は就業規則で制限されていたわけです。副業が解禁されて選択肢が広がったことは、労働者自身の幸福感の向上につながると考えられます。
副業が認められれば、自分のニーズに応じてできることが広がります。収入が必要なら収入を増やすための選択ができますし、たとえばギター演奏を人に教えたり、近所の子どもたちのために塾を開いたりすることもできます。そして、そこで得られた経験やネットワークはその人にとってプラスになります」
デメリットとしては、副業のマネジメントを自分でやらなければならない点を指摘する。
「副業はほとんどの場合、自分で繁閑の調整をする必要があります。ヒアリング調査をしてみると、副業を持つ人のほとんどが、このマネジメントの大変さを挙げていました」