OPINION4 「いい人生だった」と思えるために 自分軸の働きがいに目を向ける 定年キャリア女性への処方箋 小島明子氏 日本総合研究所 創発戦略センター スペシャリスト
女性管理職の積極的登用により、役職定年後のモチベーションや働き方の課題は、男性だけの問題ではなくなりつつある。
シニア期を迎えるキャリア女性には、どのようなケアやフォローが有効か。
日本総研の小島明子氏にポイントをたずねた。
[取材・文]=たなべやすこ [写真]=小島明子氏提供
女性でも役職の喪失はショック
「今の50代女性は、戦いながら働いてきた世代なんですよね」
そう話すのは、日本総合研究所創発戦略センターの小島明子氏だ。主に女性や中高年の働き方にスポットを当て、調査研究を続けてきた。
現在、50代半ばにさしかかる女性は、1986年の男女雇用機会均等法施行ののち、1990年前後に社会人デビューを迎えた。
2016年には女性活躍推進法が施行されるが、当時は「M字カーブ」とよばれる子育て世代の女性の年齢階級別労働力率が、他の年代に比べて著しく下がる現象が問題となっていた。また出産、育児休業を経て会社に復帰しても、サポート業務に回される「マミートラック」も活躍を遠ざけた。「男は働き、女は家庭を守る」というジェンダー観や、「女性は出世したくないんでしょ?」という決めつけが、キャリアアップを茨の道へと変えた。
間もなく役職定年を迎える50代女性管理職たちは、こうした数々の苦難を乗り越えた精鋭ともいえる。在宅勤務も今ほど自由にできる時代ではない。なかには子育てもあきらめず、定時でいったん帰宅して子どもを寝かしつけてから再び出社するという武勇伝の持ち主もいることだろう。小島氏曰く“120%の力”で、働き抜いた。
「男性に比べれば、出世志向はあまり強くないかもしれません。だからといって難しい仕事に消極的なわけではなく、むしろ目の前に訪れた機会に素直に従った結果、ポジションを上げていったというのが、女性管理職のキャリアの特徴といえます」
とはいえ役職の喪失は男性同様、就労意欲の低下を招きかねない。
「この世代は転職市場も今ほど流動的ではなかったし、副業のような会社の外で働く手段もほとんどありませんでした。つまり視野を広げる機会に恵まれず、自身のスキルや経験を発揮する場所を、会社のなかでしか見いだせないと考える人が少なくないのです」
高齢・障害・求職者雇用支援機構の調査によれば、およそ約6割が役職を降りた後の「会社に尽くそうとする意欲」の低下が見られる。女性に限った調査ではないが、同じようなことが起こる可能性が高いと、小島氏は指摘する。また調査を分析すると、「会社に尽くそうとする意欲」について、図1の特徴が見えてくる。
なかでも注目は特徴②である。小島氏によると、肩書を求める傾向のある男性と比べ、スキルの習得ややりがいでキャリアアップを志向する女性は、専門職志向が比較的強いという。つまり、これまでの仕事と関連のない部署へ配属されれば、意欲の低下は火を見るよりも明らかだ。
「大手であれば、子会社や関連会社への出向や転籍も起こりうる。歳を取ってから人間関係も新たに築かなければならないというのは、なかなか大変ですよね」
日本総研が2022年に全国で働く45~59歳の女性1042人に行った調査では、約7割が定年後も働きたいと答える。ただし、再就職後への不安として「十分な収入が得られるか」という不安を挙げる女性が4割を超え、経済的な不安から就労の継続を求める人も少なくない(図2)。