特集│HR KEYWORD 2022 学ぶ リスキリング 自ら変わり、学び続ける力が求められる時代に 奥村隆一氏 三菱総合研究所 キャリア・イノベーション本部 事業創造グループ
2020年の世界経済フォーラム年次総会―ダボス会議において、「リスキリング革命(Reskilling Revolution)」が発表されて以降、「リスキリング」はさらにトレンドワードとなった。
第4次産業革命に伴う新たなスキル獲得を主眼として発表されたことから、DXと並行して語られることが多いが、リスキリング= DX人材育成なのだろうか。
その主眼や企業における構築の要諦を、三菱総合研究所の奥村隆一氏に聞いた。
リスキリングがDX化の同義語に
DX(デジタル変革)を推進するために、既存のビジネスパーソンをいかに“デジタル人材”として戦力化するか―― 多くの企業が注目する「リスキリング」の主眼が、いま、ここにあることは間違いない。
日立製作所は2020年春から国内グループ企業の全社員約16万人を対象にDXの教育を開始した。三井住友フィナンシャルグループやあおぞら銀行などの金融機関、三菱商事や住友商事、丸紅といった商社でも、社員にAIなどの基礎を学ぶデジタル研修を、オンラインで提供している。一昨年あたりから、こうした取り組みをリスキリングの実践例として紹介する報道が増えてきた。
もっとも、言葉自体の意味は必ずしもデジタル領域に限定されない。HR分野が専門でリスキリングにも詳しい三菱総合研究所の奥村隆一氏によると、「①職種・職務の転換、あるいは、②現状の職種・職務において求められるスキルの大幅な変化への適応を目的に、新たなスキルを獲得する/させること」が、本来のリスキリングの定義である。
「似た用語に『リカレント教育』がありますが、こちらの学びは仕事と必ずしも結びつかず、人生を豊かにする趣味教養のニュアンスも含まれます。一方、リスキリングは仕事で価値を創出し続けるために、必要なスキルを得ようとするもの。仕事と並行して学ぶ点が特徴です。
本来、社会の要請により就業者の人的資本を変質させるという意味において、リスキリングは学びを提供する企業側の視点が強い言葉ですが、とはいえ、学ぶ本人の主体性なしに成功はありません。よって、『獲得する/させる』と双方の視点からの表現が併記されるわけです」(奥村氏、以下同)
リスキリングへの関心が世界に広がったきっかけは、2020年のダボス会議(世界経済フォーラムの年次総会)だった。「リスキリング革命」が主要な議題に上り、第4次産業革命に伴う技術変化に対応するため、「2030年までに全世界で10億人により良い教育、スキル、仕事を提供する」とのイニシアチブが発表されたのだ。
「第4次産業革命にはバイオ革命やロボティクスなど様々な技術の変化が含まれますが、なかでも注目されるのはやはりDXの加速です。これがトリガーとなり、労働市場で求められるスキルが劇的に変化しました」と、奥村氏は指摘する。
DX人材育成が、リスキリングの“同義語”になったゆえんである。
なぜ、自ら学ぼうとしないのか
冒頭の先行事例を見ての通り、日本でもリスキリングの取り組みは求められている。いや、日本にこそ求められるというべきだろう。
その理由は図1のグラフにある。三菱総研の推計によると、向こう10年以内に、国内では事務職や生産職に数百万人規模の大幅な余剰が生じる一方、デジタル人材をはじめとした専門・技術職は同程度以上の不足が予測されている。