社員とのコミュニケーションを通じて「積極果敢」を組織に根付かせる 古宮洋二氏 九州旅客鉄道 代表取締役社長執行役員
九州旅客鉄道は鉄道業界に身を置きながら、営業収益の半分以上を非鉄道事業が占める。
本業の枠を超えて、新たな価値を生み出す企業としての強さの秘密はどこにあるのか。
古宮社長に話を聞いた。
※インタビューは2024年2月に実施。
[取材・文]=平林謙治 [写真]=諸石 信
離職率“4%”に抱いた危機感
―― 社長に就任されたのは2022年4月。コロナ禍の収束は依然見通せない時期でした。
古宮洋二氏(以下、敬称略)
鉄道業界に身を置く当社社員はある意味、人やモノの流れが一番よく見える現場で働いていますから、それがなかなか戻らないのは相当不安だったと思いますよ。事業への影響はもちろんですが、社員のマインドは大丈夫か、みんなをどう元気づけたらいいか、社長になる前からずっと考えていました。
当社はもともと社員間のコミュニケーションが活発で、そこがいいところだと私も自負しているのですが、コロナ禍で親睦を図る機会が制限され、直接の会話さえ減ってしまいました。社員の意欲が落ち込んだ原因の1つでしょう。実際、約2%もなかった離職率が4%程度にまで上がりました。世間的にはたいしたことのない数字でも、心配しましたよ。40歳未満の退職者を見ると3倍増ですからね。やはり意思疎通が乏しく、職場にも不安が広がっているんじゃないかと。
―― そうしたなか、就任に合わせて、新しい中期経営計画を発表しました。どんな思いを込めたのですか。
古宮
22年からの3年間でJR九州グループは完全にコロナの影響から脱却するんだと。そのメッセージをまず明確に打ち出し、社員にはそのためにどうすればいいかを考えようと呼びかけました。幸い、社会経済活動の正常化が進み、人流も戻ってきたことで、23年3月期決算は大幅な増収増益を達成。回復が遅れていた本業の鉄道事業も黒字転換を果たしています。
鉄道を軸に、鉄道の枠を超える
―― その中計では、グループとして2030年までに非鉄道事業の収益を75%まで拡大する長期ビジョンを掲げました。鉄道事業が全体の4分の1というのは衝撃です。
古宮
おかげさまで、不動産事業や流通・外食、ホテルなどが成長し、鉄道の収入はいまでも35%程度にすぎません。社外取締役の方からは、「不動産会社のなかに鉄道事業もあるという形にしてはどうか」と言われました。でも、それは違うんです。そもそも社員の約8割が鉄道部門で働いていますから。その他の社員、たとえば駅ビルやホテルの展開を担う事業開発部のメンバーにもよく言うんですよ。「駅ビルだけがあっても人は集まらん。駅と鉄道があって、1日何十万人もの利用客がいるから、駅ビルの商売が成り立つんだ」と。
マンションだってそうでしょう。当社の物件が支持されるのは、鉄道事業で確立された安全・安心の企業イメージがあるから。「鉄道会社のJR九州が造った建物なら大丈夫」という信頼感が他にない価値を生み出しているのです。