第36回 「小説家に“なる”」決意の言葉が未来をつくる 宮島未奈氏 小説家
『成瀬は天下を取りにいく』で2024年第21回本屋大賞を受賞。
その他の文学賞で15冠を達成し、デビュー作が大ヒットとなった宮島未奈先生。
作品の舞台でもある滋賀への思いやアイデアの生み出し方、そして小説家になることへの決意について聞いた。
[取材・文]=長岡萌以 [写真]=上澤友香
滋賀の町が与えてくれる作品のアイデア
―― このたびは本屋大賞の受賞、誠におめでとうございます。今のお気持ちはいかがでしょうか?
宮島未奈氏(以下、敬称略)
受賞の話を聞いたときはとても驚きましたし、まだ信じられないような、ふわふわした気持ちでいます。
本書は短編集ですが、1作目の『ありがとう西武大津店』が、2021年に「女による女のためのR-18文学賞」を受賞したところから始まりました。ただそれだけでは本にならないので、続きを書きましょうと言われ、短編をまとめて生まれたのが本書『成瀬は天下を取りにいく』です。書いている最中はどういった反応がもらえるのかわからなかったので、手応えや自信があったというわけではありませんでした。ですが実際に本が書店に届き始めてから、全国の書店員の皆様から熱い感想が届き始めて。そのころから、もしかしたらたくさんの読者の皆様に読んでいただける作品になるのかなという気がし始めていました。
デビュー作ですから、宮島未奈という小説家が何を書くのかわからない状態で手に取っていただき、最初にもかかわらずこれだけ多くの人に面白かったと言っていただけるというのは、本当に稀なことだと思います。ありがたいことですね。
―― 本屋大賞受賞前からメディアで紹介され、書店でも平積みされるなど、反響が大きかったと思います。そのときから何か生活の変化みたいなものはあったのでしょうか。
宮島
生活はそこまで変わっていませんでしたし、今まで意識的に変えないようにしてきました。調子に乗っちゃだめだなと。子どもにも学校でベラベラ喋らないように言ってきました(笑)。こうしたインタビューや授賞式といったお仕事で東京にいるときはオンになって切り替えができるんですけど、自分の住まいである滋賀にいるとオフになるんですよね。変えないように意識したというよりは、滋賀で過ごしていると、自然体でいられるみたいです。
―― 本作も滋賀が舞台ですよね。実際にあった「西武百貨店の閉店」をテーマにするなど、日常のリアルを感じます。
宮島
そうですね。『成瀬は天下を取りにいく』の表紙にもなっている西武大津店は私が撮った写真を元にしているんです。これは絶対に入れてくださいとお願いして使ってもらいました。私、滋賀を歩いてネタを探すことが多いんです。たとえば本作の続編である『成瀬は信じた道をいく』では、主人公の成瀬が滋賀の観光大使をしています。このアイデアも、私が街を歩いているときに観光大使募集のポスターを見つけて、これをやったらいいのではと連想したのがきっかけなんです。よく、小説のアイデアはどこから出るんですか? と聞かれるんですけど、私も教えてほしいくらいで(笑)。日々の生活のなかで歩いて見ているものが蓄積されているんじゃないかと思います。
成瀬自身は変わっているキャラクターですが、日常のリアルというか、地に足のついた話にするというのは意識しているところです。