人材教育最前線 プログラム編 東京電力 前編 自立・自律した人材として競争時代を勝ち抜く 30 歳を到達点とした「実践力開発プログラム」 ―プログラムの設計―
管理職に必要な能力を身に付ける年齢を、今までの45 歳平均から30 歳と15 年前倒しにした技術者養成のための「実践力開発プログラム」。20 代で徹底的に鍛えるこのカリキュラムは、18 歳~ 30 歳までの技術者を、3 つのステップを踏み、長期間で育成するという画期的なもの。3 回連載第1 回目の今回は、このプログラムの立ち上げから実施までの、設計段階をレポートする。
思いを形にした三次元モデル
第一線技術者の能力を、スピーディーに高いレベルに引き上げようと導入された「実践力開発プログラム」が2年目を迎えようとしている。プログラムは若いころからテクニカルスキル(技術・技能)にヒューマンスキル(対人間関係能力)とコンセプチャルスキル(課題解決能力)を加えて、能力を引き上げようとする点が大きな特徴である。若いころから管理職に要求される能力を示す、カッツモデルを採用する構想だ。
しかし、最初からカッツモデルがあったわけではなく、研修担当者の「思い」を形にしていく中で、自然と体系化されていった。
まずは、そもそもどんな思いがあったのか、そのあたりを技術研修部の方波見力氏に聞いてみよう(以下発言部分は同氏)。
「従来の技術者教育の体系が、しっかりできていないのではないかという思いが最初にありました。会社が求める人材育成は一律なのに、研修はバラバラではないかと」
そこで、別々の部門で現場経験を持つ8人のスタッフが集まって、ワーキング形式で「入社何年目だったらこのくらいの能力は欲しい」と能力を1つひとつ挙げ、カードを作成してベタベタ貼っていった。そして、能力はその性格によって色分けしていったら、見事にカッツモデルと一致したという次第だ。
ここに大きなパラダイム転換があった。
「もともと技術者の能力レベルをより早く、より高く引き上げるイメージは持っていたのですが、ヒューマンスキルとかコンセプチャルスキルがあったら、例えば35歳でやっている仕事が30歳でできるよねと実感できたのです。カッツモデルは管理職に必要な能力を示したものと言われますが、私たちにはそうではなかったのです」
若手技術者にどんな能力があればもっと大きな仕事をしてもらえるか。そう考えていった先にテクニカルスキル、ヒューマンスキル、コンセプチャルスキルの三要素で若手技術者の能力をぐっと引き上げていく三次元モデル(図1)ができあがったのである。
研修と実践のつながり感を重視した設計思想
従来から同社には、技術者の到達モデルとしてS級がある。年齢的に言えば平均45歳。実践力開発プログラムでは、かつて管理職に必要な能力と言われていたものを早期に身に付けさせ、15年前倒しして30歳を到達点とした。
「20代で徹底的に鍛えます。私たちはこのプログラムで養成する能力を『仕事を進める上でのOS』だと考えています。要するに人間力とか、人間の基礎力と言うものです」
プログラムは入社2年目からはじめ、3つのステップを経て30歳になったとき、自立・自律した人材として競争時代を勝ち抜けるというイメージだ。ステップは、図2のようにⅠ(19~ 22 歳)→Ⅱ(23 ~ 26 歳)→Ⅲ(27~30歳)へと上がっていく。