CASE1 スリーエム ジャパン|脈々と受け継がれる、失敗を恐れず挑戦する風土 鍵は「自主性の尊重」と「コラボレーティブカルチャー」 宇田川 敦志氏 スリーエム ジャパン コーポレートR&Dオペレーション統轄技術部長
「ポスト・イット ノート」誕生の逸話をご存知だろうか。
ある技術者が、強力な接着剤をつくろうとしていて、偶然、良くくっつくが簡単にはがせる接着剤を発明する。
使い道がないかと思われたが、別の技術者の「本に挟んでも落ちない糊付きのしおり」というアイデアと結びつき、十数年の時を経て、世界的大ヒット商品が生まれた。
「失敗」で終わらせず、イノベーションに結びついた背景には、一人ひとりの自主性と仲間との協働を促す3M独自のカルチャーがあった。
[取材・文]=崎原 誠 [写真]=スリーエム ジャパン提供
革新的な製品を生み続けるイノベーション企業
3Mがもともとは鉱山事業の会社だったというと、驚く人もいるだろう。同社の社名の由来は、Minnesota Mining&Manufacturing。「Mining」は採鉱、鉱業を意味する。
アメリカ・ミネソタ州に鉱山を買い、採掘を始めた同社だったが、目的の鉱石は得られなかった。困った経営者たちは、工業製品の生産に用いるサンドペーパーを製造し、なんとか会社を継続させた。
「『失敗』というキーワードでいうと、一山当てようとしたけれど大外れ。つまり、創業から失敗とともにあった会社です。しかし、石を紙に塗布することで紙やすりをつくり、会社を興せたというのが創業の経緯になります」
スリーエム ジャパンのコーポレートR&Dオペレーション統轄技術部長、宇田川敦志氏はそう話す。
初のヒット商品が生まれたのは、創業から約20年後。同社のサンドペーパーは自動車のボディの研磨に使われていたが、研磨する際に粉じんが舞うことが、工場の作業環境の課題となっていた。それを見た同社の技術者が「何とかしたい」と研究を重ね、ボディに水をかけながら磨くことで、粉じんの飛散を減らせる耐水性サンドペーパーを開発した。
次のヒット商品も自動車関連だ。自動車を塗装する際にはマスキングテープを貼って色を塗り分けるが、当時は専用のテープがなく、接着力が強すぎて糊が残ったり、弱すぎてはがれてしまったりすることがあった。そこで、貼った部分を傷めず、塗装ラインがきれいに出るテープを開発した。
「製品を生み出すうえでは、現場に行ってお客様の困りごとを見つけ出すことを大切にしています。この姿勢は今も脈々と続いており、技術者も経営チームも大事にしています」
こうして生まれた革新的な商品群は、自動車、半導体から文房具、キッチン用品まで様々な分野に及び、今では、「イノベーションといえば3M」といわれるほど高い評価を得ている。
自主的なチャレンジを促す「15%カルチャー」
当然のことながら、新しいアイデアや未知の領域へのチャレンジは、うまくいくとは限らない。しかし、同社では積極的に自身のアイデアに取り組む風土がある。
「社会やお客様の課題を解決するために、自分のアイデアを生かすことがモチベーションになっています。だから、これが役に立つのではないかというアイデアがあったら、とにかく取り組んでみるという風土はありますね」