CASE2 竹中工務店|3年ごとの異動で学びが深まる 知の掛け合わせで「革新行動を起こす30歳」に 鴻巣忠司氏 竹中工務店 人事室 人材開発部長
3年ごとのジョブローテーションで異質な経験を積ませながら、若手社員の学習を後押しする竹中工務店。
仕事や職場、さらに会社そのものへの適応を促し、未来の革新行動に結びつける早期育成とは。
また、新卒採用者、中途採用者、それぞれの成長の鍵とは。
神戸大学大学院で社会人学生として働きながら学んだ経験も持つ鴻巣忠司氏に聞いた。
[取材・文]=西川敦子 [写真]=編集部
3年ごとの異動で促す組織社会化の足取り
日本の建設業界をリードするスーパーゼネコンの竹中工務店。同社は、手掛けた建築物のことを「作品」とよび、「最良の作品を世に遺し、社会に貢献する」を経営理念に掲げている。
これを実現させる高い技術や専門性を持つ人材育成について、同社では、3年ごとに異質な経験を積ませ、「30歳で一人前」を目指す(図1)。
「新卒者を一括採用し、一人前に育てあげるのが伝統的日本企業における採用、育成のプラットフォームです。そこで当社では、全国から入社した“新社員”(新入社員の呼称)を1年間、教育寮で寮生活を体験させながら、ジョブローテーションにより2~3つの部門での実務研修を行います。そして、2年目からはおおむね、3年ごとに2回のジョブローテーションを経験させ、仕事や会社への適応とキャリア自律を促しています」
こう説明するのは人事室人材開発部長の鴻巣忠司氏である。鴻巣氏は2010年から2年間、神戸大学大学院経営学研究科(以下、神戸大MBA)で社会人学生として働きながら学んだ経験をもつ。神戸大MBAは現場の現象に理論的な理解を持ち込む「働きながら学ぶ」ことを特色の1つとしており、同氏が日常業務を理論的にひもとく際に活用したのが「組織社会化」の概念だ。組織社会化とは、高橋弘司氏(当時・南山大学)によると「組織への参入者が組織の一員となるために、組織の規範・価値・行動様式を受け入れ、職務遂行に必要な技能を習得し、組織に適応していく過程」のことで、その学習内容として、職務役割(仕事)、集団(職場)、組織(会社)の3つの次元※1がある。(図2)。
仕事に習熟し、職場や会社全体に適応していくために、同社の新社員、若手社員はどのように育成期を過ごすのだろうか。
※1 Haueter,J.A.,Macan,T.H. and Winter,J.2003 Measurement of newcomer socialization:Construct validation of a multidimensional scale,Journal of Vocational Behavior,63(1),20-39.
全寮生活と異動の両軸で育てる未来の革新力
同社では、一般職の職能資格等級を「育成期」「貢献期」の2段階としている。前者にあたるのが、大卒であれば29歳までの7年間だ。育成期の大まかな流れは以下のとおりである。
1年目:新社員時代。実務研修として2~3つの部門を4~6カ月ずつ経験する。
2~7年目:若手社員時代。2つの部門をおおむね3年ずつ経験する。
新社員は基本的に全員、兵庫県神戸市にある教育寮「深江竹友寮」で出身や職種も異なる同期同士、チームワークを培いながら1年間の寮生活を送る。新社員たちは実務研修先で業務を担当し、各部門の役割、仕事の流れを学んでいく。