CASE 3 武蔵野 スキルよりも価値観の統一が鍵 差別しない、徹底した 理念教育で社員を“家族”に
武蔵野の中途採用では、スキルではなく価値観の統一を意識する。
さらに、理念や価値観を培う勉強会を重視し、
前職での常識を、いったんリセットすることに注力する。
過去の経験を期待する企業が多い中、同社の方針は真逆にも感じられるが、
その理由と独自の手法を、代表取締役社長の小山昇氏に聞いた。
●前提 過去のキャリアは重要ではない
掃除用品や玄関マット、空気清浄機などのレンタルや、家事代行サービスなどを手掛ける武蔵野。本社のある小金井市周辺や練馬、杉並、などの武蔵野エリアを中心に家庭用から事業用までを展開する。従業員数は800人。増収増益を続ける同社の経営手法に関心を寄せ、代表取締役社長の小山昇氏に教えを請う経営者は多い。
人事評価は成果主義である同社。ならば、輝かしい営業成績を持つ経験豊富な転職者は、喉から手が出るほどほしい人材なのでは、と思いきや、小山氏は、「そういったことは重要ではない」とバッサリ。むしろ、前職での成功体験が足かせになることがあると指摘する。
「それぞれの会社のやり方があるのに、“前の職場ではこうだった”と、切り替えがうまくできない人は、どんなに優秀で、能力があっても結局活躍できません」(小山氏、以下同)
普通は中途採用というと、前職での実績だけでなく、職務経歴や所有する資格などを指標にしがちだ。ポテンシャルを重視する新卒採用と異なり、“目に見える”キャリアが、即戦力として通用するか否かの判断材料になる。だが小山氏は、この点についてもこだわらない。
「仕事に必要なスキルは、入社後に一生懸命勉強してもらえればいい。ですから当社では、転職者のキャリアをそれほど重視していません」
“過去”にこだわらないというのであれば、中途採用のどこにメリットを感じるのか。
「転職を希望する人は、前の会社や仕事に何かしらの不満を持っています。ですから、前職と比較して当社に魅力を感じれば必死に頑張ってくれるでしょう。学生と違って社会の厳しさも知っていますから、簡単には辞めません。その点は“青い鳥”を探しがちな、新卒入社組にはない良さですよね」
―転職者が即戦力として活躍できる素地は、スキルではなく適応力にあると、小山氏は指摘する。
●採用 「家族になれるか」を見極める
転職者のキャリアを重視しないとはいえ、採用には細心の注意を払うのが「武蔵野流」だ。
「当社の考えや価値観、風土に共感でき、行動を共にできるかどうか。これが最も重要です。
例えば、社員旅行で温泉に行ったとしますよね。宿に着いてひと風呂浴び、夜の宴会でみんなが浴衣を着ているのに、恥ずかしいからと1人でトレーナーを羽織るようではダメ。世間一般では“できる”と評価される人材だとしても、当社では生きていけないし、結局辞めてしまう。最終的には肌が合う、合わないで決まるんです。能力のあるなしではないのです」