CASE1 三井物産人材開発|自ら内省し、同期から刺激を受ける 経験学習を軸に主体的成長を促す「3年目研修」 佐々木 孝仁氏 三井物産人材開発 人材開発部 部長 他
三井物産では、初期教育期間の最終年に当たる新卒入社3年目に、2泊3日の「3年目研修」を実施している。
「経験学習」をプログラムの中心に据え、自身の経験から学び、主体的に成長していくことのできる自走する人材の育成を目指す。
「人の三井」とよばれ、人材をもっとも貴重な経営資源と位置づける同社が「3年目」のタイミングで実施する施策とは――。
[取材・文]=崎原 誠 [写真]=三井物産人材開発提供
節目となる年に自分を見つめ直す機会を提供
三井物産では、数十年にわたり「3年目研修」を実施している。その内容やスタイルは変えつつも、3年目というタイミングで研修を行い続けている理由について、三井物産とグループ会社に研修サービスを提供する三井物産人材開発の人材開発部長・佐々木孝仁氏はこう語る。
「3年目というのは、いろいろな意味で節目になります。新入社員として一人前になるということもありますし、一人前になればこそ迷い始める面もある。キャリアを真剣に考え始めるタイミングでもあります。そういう節目に、しっかりと自分自身や自分の仕事、やりたいことを振り返ってもらうことは大切だと考えています」
佐々木氏がそう語るように、「3年目研修」の目的は大きく2つ。1つは自己認識を深めること。入社からの約2年半の経験を振り返り、自分自身の仕事やキャリアについて見つめ直す。もう1つは、自身の目指す姿やそれを実現するための具体的アクションを考えること。今後の成長に向けて、進むべき方向性や目標、そこに至るために何をするかを検討する。
実施時期は入社3年目の6~8月。約120人の対象者を24、25人ずつ、5、6回に分けて合宿形式で開催する。新卒で同社に入社すると、1年目は4月の導入研修を終えた後も7月、10月、3月にフォローアップ研修があり、キャリアや働き方について考える機会が定期的に提供される。一方、2年目になると、スキル系の研修はあるものの、マインド面の研修はなく、次に自身のキャリアを考える場がこの「3年目研修」となる。
同研修を担当する人材開発部キャリア・ディベロップメント室の大川卓氏も、「入社からおおよそ2年半の間に、うまくいったこと、うまくいかなかったことを現場で多く経験していますので、一度立ち止まって自分の経験を振り返り、同期からもフィードバックをもらい、新たな気づきを持ち帰ってもらいたいと考えています」と話す。
対象となる3年目社員の多くは、1つめの部署で経験を積んでいる段階である。2年半~3年たつと、研修員として海外に派遣されたり、関係会社に出向する人が出てくるので、この研修は、そうしたキャリアの転換点を前に自分を見つめ直す機会となる。
経験学習をベースに入社以来の経験を振り返る
現行プログラムは2019年に再構築した。最大の特徴は「経験学習」をベースとしていることだ。以前は事業投資の知識・スキルを学ぶケーススタディや、主体的な組織貢献をテーマに議論するワークが中心だったが、3年目という重要な節目に何がもっとも大切かを再検討し、「まずはしっかりと自分の経験を振り返り、自分と仕事を関連づけて、どういう経験をしてきたか、何がしたいか、強みは何かを同期と共に考えることが重要」(佐々木氏)と判断し、プログラムを再構築した。
「ビジネスパーソンが成長するきっかけは7割が仕事、2割が上司や同僚からのアドバイス、1割は読書や研修といわれます。当社もOJTを人材育成の基本と位置づけていますが、7割の仕事経験をうまく成長につなげていくうえで研修の意義は大きく、研修とOJTを連結させる理論として経験学習の考え方が有益と考えました。仕事を通じて得た経験を適切に振り返り、学びや教訓を抽出して活かしていくことで、OJTを促進することができます」(佐々木氏)