第27回 三菱ガス化学 イノベーションセンター『MGC Commons』(東京都・江東区)
どのような空間ならば、「学び」は促進されるのか。
オフィス学を研究する東京大学准教授の稲水伸行氏が企業のオフィスや研修施設をめぐり、学びを促進させる工夫を解説する。
[取材・文]=田中 健一朗 [写真]=山下裕之、三菱ガス化学提供
“50年後の持続的成長”を見据えたイノベーションの拠点
2021年、創立50周年を迎えた三菱ガス化学では、記念事業の一環として、同社のグループミッションである「社会と分かち合える価値の創造」を実現する「人材育成」「イノベーションの創出」「情報発信」に取り組むための場として、イノベーションセンター『MGC Commons』の建設に着手。2023年10月から稼働した。
「特色と存在感ある研究開発型企業」を掲げる同社。さらに50年後も持続的に成長していくために、常に変化し続け、社会課題の解決につながる製品、事業、技術を新たな価値として創造するための、“新たなイノベーション創出の拠点”と位置づけられている点が、従来の研修施設とは大きく異なるところだといえるだろう。
新施設の構想段階では、当初、選択肢の1つとして、1985年に建設された目黒の旧研修施設(2023年10月末に閉鎖)の建て替えも検討されていた。しかし、閑静な住宅街に立地していることによる建設上の制約に加えて、コロナ禍で施設の構想自体が大きく変わったことが要因となり、現在の場所での建設に至ったという。
「旧研修施設はバブル期の80年代に建てられました。講義形式の研修を想定し、120平米程度の会議室が1室しかなく、1日に1つの研修しかできません。加えてアクティブラーニングを主体とした現在の研修にもマッチしないのが実情でした。
また、かつて人材開発部門は、教育研修の名目で部署横断的な社内交流を起こせる唯一の部署として機能してきた側面もありますが、これからは、ボトムアップを促す文化や、社外との交流を提供していく必要があるのではないかと思いました。
これらの課題を解決できる新しい場について、社内の若手メンバーからの意見も参考にしながら、深く検討を重ねた結果、木場に新しい施設を建設する方向に舵を切ることになったのです」(総務人事部D&I推進グループ主査自閑大輔氏)