組織づくり│弱いリーダーシップ 弱さと向き合えるリーダーが強いチームをつくり出す 伊達洋駆氏 ビジネスリサーチラボ 代表取締役
リーダーといえば、ビジョンを掲げてフォロワーを引っ張っていく「強いリーダーシップ」のイメージが一般的だ。
それに対して近年、リーダーが弱さを見せることによって強いチームをつくり出すリーダーシップが注目されている。
「弱いリーダーシップ」とはどのようなリーダーシップで、なぜいま注目されているのか、弱さを見せるとはどのようなことを指すのか、「弱いリーダーシップ」についてビジネスリサーチラボ代表取締役の伊達洋駆氏に聞いた。
[取材・文]=増田忠英 [写真]=ビジネスリサーチラボ提供
「強いリーダーシップ」が主流だったリーダーシップ研究
「リーダーシップの研究には長い歴史があり、『リーダーシップ・セオリー・ジャングル』とよばれるほど様々な理論があります」
こう話すのは、経営学の研究者を経て、組織・人事領域の調査・コンサルティングサービスを提供するビジネスリサーチラボ代表取締役の伊達洋駆氏だ。氏はリーダーシップ研究の大きな潮流について、次のように説明する。
「当初は、生まれ持った資質や特性に着目した研究が行われていました。しかし、それでは成果が十分に得られなかったため、次にリーダーが取る行動に着目し、どのような行動を取れば人々に影響力を行使できるのかが研究されるようになります」
その潮流のなかで欠かせないトピックとして、伊達氏は2つの研究を挙げる。1つは「構造づくり」と「配慮」の研究だ。同様の研究として日本では「PM理論」が名高い。
構造づくりとは、仕事を進めていきやすい状態をつくるリーダーシップ行動(課題志向の行動)のことで、配慮とは、人間関係のメンテナンスを行うリーダーシップ行動(人間志向の行動)を指す。PM理論では、この2つのリーダーシップ行動がそれぞれパフォーマンス(課題志向)とメンテナンス(人間志向)として表現される。
「結論は明確で、課題志向の行動と人間志向の行動の両方ともできるリーダーがフォロワーのパフォーマンスを高める、というものです。リーダーが仕事を進め、人間関係にも配慮していく、リーダーが引っ張っていくイメージが強い理論といえます」
そしてもう1つが、研究蓄積がかなり進んでいる「変革型リーダーシップ」だ。リーダーが理想を掲げ、その実現に向けてフォロワーを鼓舞したりモチベーションを高めて導いていくようなリーダーシップを指す。
「この2つに代表されるリーダーシップ論は、リーダーの行動に着目してきたため、暗黙のうちにリーダーを重要視する前提がありました。リーダーが強くあることが大事だという規範が背後にあったわけです。いずれもリーダーが中心となってフォロワーを引っ張っていく形になるため、私は『強いリーダーシップ』とよんでいます」
「弱いリーダーシップ」はなぜ集団の成果を高めるのか
長年にわたり「強いリーダーシップ」に偏ってきたリーダーシップ論だが、その一方でフォロワーにも着目するアプローチが増えてきた。
「リーダーシップとは現象であり、リーダーが1人で頑張れば何とかなるわけではありません。PM理論や変革型リーダーシップも、フォロワーの協力がなければどうにもならないわけです。そこで、しだいに『フォロワーも重要ではないか』と考えられるようになってきました。その動向と合わせて、強いリーダーシップとは異なる『弱いリーダーシップ』の形が提示されるようになってきたのです」
弱いリーダーシップはいくつかのリーダーシップ論から形成されるが(図)、そのなかでも典型的なものが「謙虚なリーダーシップ」とよばれるリーダーシップ論だ。