「介護教育と両立支援」
IT企業の戦略人事担当役員等を歴任し、『はじめての課長の教科書』『「日本で最も人材を育成する会社」のテキスト』等の著書でも知られる酒井穣氏。実は20年にわたり、介護をしながら仕事をしてきた“当事者” であるという。その立場から、改めて今後の日本にとって重要な「介護と仕事の両立」というテーマと、人事・人材開発部門がすべきことについて語る。
働きながら介護が当たり前に
多くの従業員には親がいますが、高齢になると介護が必要になることについて、あまり意識していないビジネスパーソンもいるようです。しかし現実に、ほとんど全ての従業員が、介護に関わることになります。一昔前まで、多くの家庭では、専業主婦が介護を担っていました。しかし、これから介護を始める世代には、以下のような特徴があるため、そうもいきません。
①兄弟姉妹が少ない
②未婚率が高い
③既婚の場合でも共働きが多い
④出産の高年齢化
古い世代のように、親類縁者の中に、専業主婦など介護を担える人がいないことが多く、いたとしても小さな子どもを抱えている可能性が高いのです。介護をお願いされても無理な状態でしょう。
こうした背景を受け、「働きながら介護を担う人が多い」のが現代です。特に厳しいのは、夫婦が一人っ子同士で、それぞれの両親4人の介護を、夫婦2人で担うというケースです。そしてそれは、現実として少なくありません。
1300万人が「隠れ介護」
近年、仕事をしながら介護をしている人は、公式には240万人といわれます(平成24年総務省就業構造基本調査)。しかし、この数字は、会社に対して介護を“カミングアウト”している人の数に過ぎません。日経ビジネス(2014年9月22日号)の調査では、会社が把握していないところで1300万人もの労働者が「隠れ介護」を行っていることも明らかになりました。これは、日本の労働力人口の5人に1人(20%)に相当します。
この背景には、「介護をしていることを会社に伝えてもメリットがない」という事実があります。例えば三菱UFJリサーチ&コンサルティングの報告(2013年)によると、14%(「わからない」という回答も合わせれば47.6%)もの企業で、仕事と介護の両立支援制度を利用すると、昇進・昇格に影響することが分かっています。極端に言うなら、「介護をしていないフリ」をしたほうが昇進・昇格をしていく可能性があるということです。