HR TREND KEYWORD 2021│組織│OODAループ 計画より即断即決 ニューノーマル時代を生き抜く組織とは 原田 勉氏 神戸大学大学院 経営学研究科 教授
VUCAの時代とよばれ、さらにコロナ禍で先行きの不透明感が増す現在、PDCAサイクルに代わるマネジメントのしくみとして注目されているのが「OODAループ」だ。
OODAループとは何か、また組織への導入時の注意点などについて、日本におけるOODAループの第一人者、原田勉氏に聞いた。
戦争分析によって生み出されたOODAループ
OODAループは、元米国空軍大佐のジョン・ボイドによって提唱された競争戦略の理論で、もともと湾岸戦争などの軍事戦略に用いられ、成果を上げてきた。「観察(Observe)」「情勢判断(Orient)」「意思決定(Decide)」「行動(Act)」という4つのフェーズで構成される。
原田氏は、ボイドがOODAループを理論化した背景について、ボイドが分析した数多くの戦争から、2つの例を挙げて説明する。
「1つは、朝鮮戦争で戦ったソ連製戦闘機ミグ-15と米国製戦闘機F-86の差です。性能はミグ-15の方がわずかに優れていたにも関わらず、撃墜率ではF-86が10対1で圧倒しました。その要因は、視界の広さと操縦桿の軽さでした。このことからボイドは、様々な物事を観察し、素早く行動に移すことの重要性に気づいたのです。
もう1つは、第二次世界大戦において、ドイツ軍がイギリス・フランス連合軍に奇襲作戦を仕掛け、数週間で降伏させた電撃戦です。戦力に劣るドイツ軍が勝てたのは、敵の裏をかいたところにあります。それが可能だったのは、敵よりも早く観察して行動に移したためでした」(原田氏、以下同)
こうしてボイドは、観察から情勢判断を行い、意思決定を下して行動に移すOODAループを理論化した。
「OODAループはPDCAサイクルのように順番に行うのではなく、同時並行的に行うものです。特に重要なのはD(意思決定)を除いたOOAであり、観察→情勢判断→行動はほぼ同時に起こります。これは、スポーツで考えるとわかりやすいでしょう。たとえばテニスの場合、相手が打ってきた球を見て、おそらく瞬間的に体が動いています。そこで意思決定をしていては間に合いません。軍事でも同じです。直観的に判断して行動し、そして修正していく。これは、我々が日常生活で自然に行っていることでもあります」
コロナ禍によりリモートワークが広がるなか、直観的に行動するOODAループの必要性はいっそう高まっていると原田氏はとらえている。
「製品開発の現場では、試作品を作って顧客のフィードバックを得ながら改良していくプロセス(プロトタイピング)が、現物ではなくバーチャルで行われるケースが増えています。バーチャルであれば、現物に比べてコストをかけずスピーディに対応できるため、試作品作りとフィードバックを何度も繰り返すことが可能です。それが意味することは、意思決定が現場に委ねられるということです。いちいち上司の決裁を待っていては遅くなりますし、また、コストがさほどかからないため、失敗してもやり直すことができる。こうした状況では、OODAループはますます機能しやすくなります」
PDCAサイクルでは非効率な領域がある
一方で、OODAループを組織的に実践することの難しさを原田氏は指摘する。その理由の1つとして挙げるのが、PDCAサイクルの存在だ。
「日本企業にはPDCAサイクルが根強く存在しますが、Planから始まるPDCAは、計画がなければ動けないしくみです。企業のなかには計画策定に半年以上かけているところもありますが、その間に状況が変化してしまうことは少なくありません。また、そもそもイノベーションを起こすために計画を立てることは不可能です。そのため、多くの企業が計画立案に苦労し、ほとんど儀式と化しているのが実情ではないでしょうか」
PDCAサイクルが有効な領域もある。生産部門や予算などは、計画を立ててPDCAを回すことが不可欠だ。それに対してOODAループは、不確実性の高い研究開発部門や、即断即決が求められる営業やサービスの現場などに適しているという。