対話を軸に、グローバル各拠点の自律的な取り組みを支援 グローバル憲章でグループを一つに ブラザー工業の理念共有 楊 天寧氏 ブラザー工業 CSR&コミュニケーション部 マネジャー 他
40以上の国と地域に生産や販売・サービスの拠点を持ち、国内外4万人以上の従業員が働くブラザーグループ。
関わる人が多いほどビジョンやミッションの共有が難しくなるが、同グループは対話を活用して「ブラザーグループ グローバル憲章」の共有を図っている。
国や地域が違えばカルチャーも異なるが、どのような仕組みで双方向の対話を促しているのだろうか。
[取材・文]=村上 敬 [写真]=ブラザー工業提供
理念の浸透ではなく「共有」を目指す
プリンターや複合機、工作機械、ミシン、通信カラオケシステムなど複数の事業を展開するブラザーグループ。1908年の創業から115年、いまや40以上の国や地域に拠点を持つグローバル企業となった。
ただ、事業やエリアが広がるとグループとしてのまとまりを維持することが難しくなっていく。ブラザーグループも例外ではなく、1990年代は組織間の連携に手間取っていたという。CSR&コミュニケーション部マネジャーの楊天寧氏は次のように明かす。
「現在社長を務める一郎さん(佐々木一郎氏。ブラザーでは社長も含め全員“さん付け”が基本)が、当時はお客様ではなく社内のお互いを見て、開発・営業・製造が互いの責任を追及し合う雰囲気があった。業績の芳しくない時期もあり、グループとして一つになれる理念、ブラザーを象徴する言葉である“At your side.”の意義を痛感したと話されていました」
そうした背景から1999年に制定されたのが、経営の基本方針と行動規範で構成される「ブラザーグループ グローバル憲章」(以下、グローバル憲章)だ(図)。しかし、制定後の浸透度は高くなかった。2007年に各拠点のトップであるマネージングダイレクターにアンケートを実施したところ、「自社の従業員がグローバル憲章をもとに行動できている」との回答はわずか7%。そこで創業100周年を迎えた2008年、従業員にとってより親しみやすい文言に改訂。28言語に翻訳し、第一線で「共有」する取り組みを始めた。
CSR&コミュニケーション部の大井裕之氏は「理念の『浸透』というと、浸透させる側とさせられる側が生まれてしまう。組織のミッションや自身の役割のもと、理念を自分の言葉で“再解釈”すること、価値観を共に分かち合うことが重要だと捉え、『共有』という表現にこだわりました」と語る。
経営陣は年間4,600回の「直接対話」を実施
グローバル憲章を組織で共有するために、同グループは大きく2つの方向で取り組みを推進した。1つは、トップマネジメント層による実践。もう1つは、ミドルマネジメント層による第一線への展開で、いずれも“再解釈”を軸に置いている。
トップマネジメント層の取り組みから紹介しよう。まず注目したいのが、経営陣の「コミットメント」だ。