CASE2 青山商事|ユーザーの声とビジネスパーソンの課題に寄り添う AI活用と対話の両軸で実現するコミュニケーション×マーケティング 平松葉月氏 青山商事 リブランディング推進室長
組織の在り方が変化するなか、ビジネスパーソンのコミュニケーションの対象は社内だけではなくなってきている。
社外の人々の声を把握するコミュニケーションをマーケティング活動と捉え、AIを使ったバーチャルと、対話を重視したリアルの施策を両軸で展開しているのが、ビジネスウェア大手の青山商事だ。
施策を推進するキーパーソンに聞いた。
[取材・文]=菊池壯太 [写真]=青山商事提供
コミュニケーションを基点に新しいマーケティングの在り方を模索
「洋服の青山」をはじめ、幅広い年齢層に対してビジネスウェアを提供する青山商事。テレワークの普及など働き方が多様化し、ビジネス環境も変化するなか、同社はビジネスウェアの在り方そのものを改めて問い直し、新しいファン層の開拓を模索するために、ユーザーとのコミュニケーションにおいて、ユニークな施策を展開している。
そうした施策の中核を担っているのが「リブランディング推進室」だ。リブランディング推進室は、コロナ禍に入る直前の2019年10月に新設された部署で、その位置づけは、同社の最大の強みであるビジネスウェア事業を、新しいマーケティング手法を実装することで変革し、中長期的な視点で成長につなげようという戦略的なものだ。
様々な課題について検討していくなかで、まず着目したことは、ビジネスウェア市場の中核である20代から40代の男女の購買客層にうまくリーチできていないという現状だった。リブランディング推進室長の平松葉月氏は次のように話す。
「ビジネスウェアを軸とした弊社の将来的な成長を見据えたとき、この世代におけるブランド認知はとても重要です。しかし、現状としては、この世代とのコミュニケーションが相対的に少ないことが課題でした。そこでまず、この世代の人たちがどのようなビジネスウェアを必要としていて、何に困っているのかを把握したいと考えたのです」
一般的な市場調査だけではなく、青山の店舗に来たことがないような人たちも含めて、この世代と直接的な接点を常に持ち、悩みやニーズを深掘りしたいと考えた。そうした接点づくりの手法として打ち出されたのが、AIチャットボットの開発と、共創コミュニティの立ち上げという2つの施策である。
AIチャットボット「よしこ」は、株式会社空色が開発・提供しているWEB接客ソリューション「WhatYa(ワチャ)」をベースとしたもので、質問や相談を投げかけると、「よしこ」という仮想スナックのママが答えてくれるというものだ。一方の共創コミュニティは、社内外コミュニケーションの場として、リアルな場で多様な人たちが、ビジネスウェアを取り巻くテーマについてディスカッションをしながら、課題の解決に取り組むもの。バーチャルとリアルという、一見すると性質の異なる施策に感じるが、いずれもマーケティング上の課題が出発点となっている。
「自社の商品開発に限らず、世の中のビジネスパーソンが抱いている課題をバーチャルとリアルの両面から把握し、青山商事の経営資源を使って共創によって解決する。そうした活動を通じてファン層を広げる。その目的で立ち上げたのが、『AIチャットボットよしこ』と『共創コミュニティ』です」(平松氏、以下同)
以下で、それぞれの施策の詳細を紹介する。
若手社員のお悩みに寄り添うAIチャットボット「よしこ」
キャラクターをスナックのママに
チャットボットの企画がスタートする前、リブランディング推進室では、関連会社など比較的身近にいる20代の若手ビジネスパーソンを対象に、ビジネスシーンにおける悩みについて、予備的なヒアリングやアンケート調査を行ってみたという。結果を見て平松氏は、人間関係の悩みや、自分の将来についての漠然とした悩みなどが目立ち、いずれも明確な回答を求めるようなものではないと感じたという。
「まず聞いてほしい。そのうえで、『なんとなくアドバイスっぽいこと』を返してほしいといった気持ちの人が多いと感じました。なので、問いに対して正しい答えを返すのではなく、まず聞いて、何かしらの気づきを与えてあげるのがいいのではないかということになりました」