CASE 1 ソニーマーケティング|デジタルマーケティングでベストな学習タイミングを見いだす 学びと経験の点をつなげて線にする データドリブンのキャリア支援システム 嶋谷 康太郎氏 ソニーマーケティング 人事総務部 人材開発課 他
ソニー商品のセールス&マーケティングを担うソニーマーケティングでは、
独自のキャリア支援プラットフォームを開発。
デジタルマーケティングを駆使した運用により、若手のキャリア自律とスキル習得を促す。
運用のしくみと効果を中心に開発者に話を聞いた。
学習と経験の点をつなげキャリアの線を築く
テレビや音楽プレーヤーなど、ソニーのエレクトロニクス商品のマーケティング、セールスを手掛けるソニーマーケティングでは、社員の8割がマーケティングやセールスに携わる。
ソニーマーケティング人事総務部人材開発課の嶋谷康太郎氏は、「商品のプロモーション戦略やグローバル展開など、大きなプロジェクトに携われるチャンスの多い会社です。しかし入社して最初のうちは家電量販店等を担当する国内セールスとして販売現場での業務を経験してもらうことがほとんどです。若手に販売の現場とこの先の仕事との結びつきを実感してもらい、キャリアに対する意識とスキルの習得意欲を高めることが課題でした」と話す。
このような背景もあり、同社では20代社員のキャリア自律とリテンション強化を目的に、キャリアと学びのプラットフォーム「Connecting the dots」を開発した(2020年10月よりオープン)。
Connecting the dotsは、社員の現在の配属や職務内容と、過去のOff-JTの受講状況を解析し、今のタイミングに最適な学びのコンテンツを個別にリコメンドする機能をもつ。使えるビジネススキルを適切なタイミングで習得できるため、業務ですぐに試すことができる。学んだスキルの実践により知識の定着を期待できるため、学びや仕事へのモチベーションも上がるという仕掛けだ。
この「点を結ぶ」、という意味のConnecting the dotsという名称には、どのような思いが込められているのか。開発チームを率いた嶋谷氏によれば、次のとおりだ。
「点を結ぶ対象は、キャリアと学習の2つです。1つめは、自分の将来なりたい姿を描き、その実現に向け計画的にキャリアをつなげていくこと。もう1つは、学んだことを経験と結びつけて有益なものを生み出す、という意味です」(嶋谷氏)
Connecting the dotsができる以前は、キャリアやスキルとの関連や中堅社員のキャリアパスモデルなど、体系立てて解説した情報はなかったという。そのため、キャリア面談の場で希望を聞かれても「海外で働きたい」などと漠然としていて、将来活躍する姿やそこに至るプロセスが不透明な社員がほとんどだった。「自分のキャリアは自分で築く」という精神が同社には以前から息づいているが、計画的に実践することは難しかった。
「学びと経験の結びつきは、米国の調査機関であるロミンガー社が提唱する『70:20:10の法則』に基づいています。能力開発の機会は経験が70%を占め、上司や周囲からのアドバイスやフィードバックが20%、研修などのOff-JTは10%というものです」(嶋谷氏)
そこで同社では、Off-JTは質の高い経験を支える役割ととらえ、知識に経験を紐づけることで学習効果を高めようと考えた。
ソニーグループの人事・総務領域をサポートする、ソニーピープルソリューションズ代表取締役の望月賢一氏は、個々に合わせた学びのタイミングの重要性を説く。
「従来の人材開発は、入社○年次にこれを教える、×年次にこれを扱うというように、学習対象者を集団でとらえ、一律に提供することが主流でした。でも学習する本人たちは、学習や経験、年次などを区別してはいません。また、あるポジションへのキャリアパスは、1とおりだけとは限りません。めざすキャリアとその経路をデザインし、現在の位置づけを認識する、そして活躍したい方向線上に経験と学びを乗せていくように働きかけることが重要だと考えたのです」(望月氏)
ロールモデルを徹底分解し、必要なスキルの可視化を図る
Connecting the dotsの源泉は、「職種図鑑」とよばれる読み物にある。嶋谷氏が人事に赴任して間もなく着手したオリジナルコンテンツだ。