OPINION3 オンラインは「つなぎ」での活用を 対面のコミュニケーションが起こす感情の共有 榊󠄀 浩平氏 東北大学 加齢医学研究所 助教
コロナ禍の間にZoomなどを用いたリモート会議がすっかり定着した。
しかし、こうしたオンラインコミュニケーションは本来の意味で「コミュニケーションではない」と指摘するのは、東北大学加齢医学研究所助教の榊󠄀平氏だ。
脳活動とコミュニケーションの質について研究する榊󠄀氏に、オンラインコミュニケーションの問題点や、対面とオンラインや対話型AIの有効な使い分け方などを聞いた。
[取材・文]=増田忠英 [写真]=榊󠄀 浩平氏提供
オンラインだけではコミュニケーションは不十分
コロナ禍を経て、コミュニケーションの形式は大きく変化した。対面で会話をする機会が制限されたため、代わりにデジタル機器を用いて行うオンラインコミュニケーションが広く普及した。なかでもZoomなどのWeb会議システムは、互いに顔を見ながらリアルタイムで会話ができるため、対面での会話を代替する便利なコミュニケーションツールとしてすっかり定着している。
しかし、こうしたオンラインコミュニケーションについて、脳科学の観点から教育法などを研究している東北大学加齢医学研究所助教の榊󠄀浩平氏は、「実際にはコミュニケーションといえないくらい、対面での会話とは性質が異なるもの」と指摘する。
「コミュニケーションには様々な定義がありますが、私は『人と人とが双方向的な情報のやり取りを通じて心を通わせること』と定義しています。つまり、コミュニケーションとは『情報のやり取り』と『感情の共有』という2つの要素が含まれたものであり、ただ情報をやり取りするだけでは、コミュニケーションとして十分ではありません。私たちが行った研究では、オンラインコミュニケーションでは感情の共有が行われておらず、先の定義に照らせば、コミュニケーションとしては不十分と言えます」(榊󠄀氏、以下同)
対面で会話している人たちの脳活動は同期している
榊󠄀氏はコロナ禍になる前から、脳活動の同期とコミュニケーションの質の関係を明らかにするための研究を行ってきた。この研究では、被験者の頭にNIRS※という機器を装着し、脳の「前頭前野」という領域の血流量の変化を計測する。前頭前野は額の裏側にあり、思考や記憶などの知的活動や、感情の制御、相手の気持ちを推し量るといったコミュニケーションに関わる機能を担う。血流量の変化は脳活動の変化と相関している。
鍵となるのは「脳活動の同期」である。榊󠄀氏によれば、脳の活動は上昇したり低下したり、時々刻々と変化している。普段、脳は一人ひとりバラバラのリズムで動いているが、対面で会話をすると、会話をしている人たちの間で、脳活動のリズムが揃ってくる場合がある。これが、脳活動が同期している状態だ(図1)。
「脳活動の同期が何を意味しているかについては、今まさに研究が進められているところですが、私たちは、コミュニケーションにおける共感や共鳴のような感情の共有が起きたときに、脳活動が同期しているのではないかと考えています。たとえば、『この人とは話が合わないな』と感じるときには脳活動が同期しておらず、逆に、古くからの友人同士で、会話をしていなくても空気感が合うと感じるときには脳活動が同期していることが研究で明らかになっています。相手との間に信頼関係が築けていたり、一体感が生まれているような状態は、脳活動が同期しているといえます。したがって、脳活動を同期させることは、コミュニケーションにおいては非常に大切なことなのです」
※ NIRS(ニルス):近赤外光を使って脳の表面の血流量の変化を測る装置。