CASE 3 東都金属印刷 一人ひとりへのフォローが情熱を支える! 年齢で差別しない、 若手とシニアがペアになる
肉体作業も多く、体力が要求される印刷業界。
ところが、缶製品等の素材印刷を扱う東都金属印刷では
60 代から80 代の従業員が多く活躍するという。
「シニアは貴重な人材」と語る、その背景とは。
●概要 60代以上が社員の3割を占める
菓子や海苔、お茶の食品缶、コーヒー、コーラの飲料缶、缶詰、瓶の王冠、乾電池等、アルミやスチールへの印刷を手掛ける東都金属印刷。従業員55 名のうち、60 代以上が3割以上を占める。平均年齢は50.1歳と、“人生のベテラン”が大活躍する会社だ。最高齢は社長室付顧問の永吉武夫氏で、83歳というから驚きである。
60歳を超えても元気に働き続けられる理由は実にシンプルだ。65歳以上の従業員を対象とした再雇用契約では、年齢制限を設けていないのである。
「今年から定年の65歳を迎えた社員は、70 歳まで嘱託社員として再雇用契約を結び、その後は状況に応じて契約を更新するという仕組みを設けました。しかし制度化する前から、本人に働く意欲があって、体力的にも問題がなければ、1年ごとに更新する形で雇用契約を結んでいました」(永吉武夫氏、以下永吉氏)
始まりは“面談”だった。会社のご意見番的立場にある永吉氏は、全社員を対象に、会社や仕事のことも含め、自由に話せる個人面談の機会を設けていた。改めて、「会社には報告しないから、思う存分好きなように話してほしい」とシニア社員に呼びかけたところ、将来への不安と共に、まだまだ働き続けたいという声が相次いだという。
「以来、面談時の内容を重視するようになりました。健康状態や家庭の状況等もヒアリングします。業務内容だけでなく、出勤形態や給与についても本人の意向をよく聞き、話し合ったうえで契約を更新する仕組みとしました」(永吉氏)
現在は毎年5月を契約更新月とし、それに合わせて面談を行っている。
「一番盛り上がるのは、体力や健康面の話。年齢を重ねる以上、避けて通れないテーマです。印刷業は肉体労働ですし、1年前にはできていた仕事がしんどい、ということもあるでしょう。本人が不安を感じている場合は、配置転換や勤務時間の調整を行います。技術者なら若手の指導者的な立場を担ってもらったり、現場に立ち続けるのが難しければ、短時間勤務、短日勤務にしたりといった具合です」(永吉氏)
賃金・賞与は、基本的にパート従業員を対象とする職種別の人事評価表に基づいて算出するが、それで決定というわけではない。面談で本人の要望や事情をヒアリングしたうえで決める。会社の現実もあり、折り合いをつけるのは簡単ではないが、重要なポイントなので、そこは丁寧に検討を重ねるという(図)。
一方、交通費の支給や健康診断、予防接種の実施などは正社員と非正規社員の区別はつけず、全員同じ条件で行う。
家庭の事情等で働くことが難しいといった場合を除き、定年を迎えたほとんどの社員が再雇用を希望するという同社。高齢者の新規採用にも積極的だ。他社で定年退職まで勤め上げた人材が活躍しているケースも多いと、総務部係長の木間和美氏は説明する。
「今年76歳のスタッフがいますが、入社面接で『私の趣味は働くこと』と述べていたのが印象的でした。彼は今年で入社8年になります」(木間和美氏、以下木間氏)
ISO認定を取りまとめるメンバーも、他社の定年退職を機に入社した。今年、80 歳の誕生日を迎えるという。
●背景 熟練の技術と意欲を尊重
改めて、なぜ同社では定年後の再雇用や、シニア人材の獲得に力を入れているのだろうか。重機を扱い、金属板等を運ぶ作業もある印刷業なら、体力のある若手が戦力の中心になりそうだが。
「若い人材もぜひ欲しいですよ。しかし一方で、金属印刷は機械やデータに任せられるデジタルなものではなく熟練の技術を必要とする仕事ですそもそも、一人前になるには10 年は修業が必要というのが、この世界の常識でした。それだけに、ベテランの力は欠かせないのです」(永吉氏)