OPINION4 伝わる「紙1枚」が高める思考力と信頼 思考を整理し、考え抜く力を磨いて、良質なアウトプットを生み出す 浅田 すぐる氏 「1枚」ワークス株式会社 代表取締役
情報が整理され要点を押さえた資料づくりは、成果を生み出す仕事に欠かせない。
トヨタ自動車の「紙1枚」文化とよばれる良質なアウトプットのノウハウを、浅田すぐる氏に聞いた。
トヨタ自動車の「紙1枚」文化とよばれるその背景
トヨタ自動車(以下、トヨタ)では、社内での打ち合わせや様々な提案の機会にメンバーが共有する資料は、原則として「紙1枚」にまとめるという文化がある。そのルーツは定かではないものの、1960年代から始まった高度経済成長期にあるとされている。国内産業は右肩上がりの成長を続け、働く人々の所得が倍増したこの時代、トヨタの職場も例外なく多忙を極めた。同時に、国際情勢やビジネスを取り巻く環境は大きく流動する時代に突入し、新たな課題が次々と発生する。その対応を余儀なくされるなかで、会議や打ち合わせの機会も激増した。
時間がいくらあっても足りない状況のなか、どうすれば短時間でポイントや要点を絞って、多様な関係者と共有できるのかを模索するうちに、自然発生的に定着していったのが、「紙1枚」なのだという。
サラリーマン時代はトヨタに在籍し、現在は「紙1枚」による思考整理やコミュニケーション手法を社会人教育の世界で提供している浅田すぐる氏は、次のように話す。
「最初は工場の現場で模造紙を使うことが多かったようですが、だんだんホワイトカラーにも降りてきて広がっていったようです。そして、いざ『紙1枚』にまとめることを実践してみると、数々の思いもよらぬ効果が生まれました」(浅田氏、以下同)
言うまでもなく、トヨタは今日では世界有数のグローバル企業に成長している。「紙1枚」によって時短を実現しアウトプット力を高めたことが、その発展の背景にあったといえるかもしれない。
では、私たちのビジネスシーンでアウトプット力を高めるために、「紙1枚」をどう活用すればいいだろうか。浅田氏は、「『紙1枚』は資料作成術ではなく、資料作成をつうじた思考整理法であり、コミュニケーション」だと話す。そして、「紙1枚」にまとめる作業は、①考えるベースとなる情報を書類に「整理する」、②自分なりの「考え」を書類に「まとめる」、③書類の内容を誰かに「伝える」という3つのステップで説明できるという。
「紙1枚」という最小限の資料作成をつうじて行う思考整理とコミュニケーションのノウハウを見ていこう。
ステップ1 考えるベースとなる情報を書類に「整理する」
●「情報不足」であることに気づく
第1ステップは情報のインプットだ。浅田氏によると、アウトプットにおける課題は、ほとんどの場合、インプット段階での情報不足が原因だという。
「考えがまとまらないのは、その人の思考方法や文章技術に問題があるのではなく、情報が足りていないから。そのことにまず気づいてほしいのです。私が指導しているのは、緑ペンで枠を、青ペンでキーワードを書く。そして赤ペンでまとめるという手法です(図1)。枠の設定については後述しますが、なぜ色分けするのかというと、ビジュアルとして情報が整理され、見やすいからです。キーワードを書き出せない人は、青ペンの書き込みが少ないことがひと目でわかります。これは情報不足の人の特徴で、情報の断片であるキーワードと、自分の考えがいっしょくたになっているのです。これらは、書き出すことで初めて気づくことなのです」
まとまりがなく冗長な文章になる原因は、情報過多で思考整理がつかないことにあると思いきや、意外にも情報不足が原因ということだ。