CASE.2 高島屋横浜店 チームで多職種をこなすという発想 仕事は自ら発見する! ジョブコーチがリードする伸びる循環
障害者だからこそできる仕事が、実は無数に存在していた――髙島屋横浜店の「ワーキングチーム」は、およそ150種類もの作業をこなす強力な戦力集団だ。眠れるニーズ、そして能力を呼び覚ます仕掛けとは。カギは、障害者の言葉や想いを翻訳し周囲に伝え、自ら挑戦、成長する循環を生み出す「ジョブコーチ」の役割にあった。
●現状150種類の作業を担う“戦力”に
本館(百貨店の建物)から立ち寄ったマネージャーが深々と頭を下げた。「この間は、急ぎの仕事を引き受けてくれて、本当に助かりました」「横浜タカシマヤ」から徒歩2分の所にある事務方を集積したビル。その一角の総務部人事グループには、障害者が中心となって構成するワーキングチームがある。伝票書き、DMラベル貼り、シール切り、封入、カードやクーポンのハンコ押し――華やかな百貨店の売り場の陰には、実はさまざまな細かい作業が存在している。その数、ざっと150種類以上。これらを一手に引き受けているのが、ワーキングチームの障害者たちだ。販売担当者が仕事の合間や残業でこなしていた仕事を引き受けたことで、販売担当者の接客時間は格段に延びた。髙島屋横浜店、全従業員1,891名のうち、障害を持つ従業員は27名。このうち、知的障害者は13名、身体障害者13名、精神障害者は1名だ。特例子会社ではなく、自社内で健常者と障害者が助け合いつつ働く例は珍しい。現在の障害者雇用率は法定雇用率を上回る2.20%。厚生労働省の「精神障害者雇用促進モデル事業」に参画している。2007年から本格的に精神障害者の雇用促進を図り、法定雇用率達成に向け、取り組んできた。とはいえ、かつての横浜店の障害者雇用の状況は今とは全く違っていた。総務部人事グループ池田勝次長は当時をこう振り返る。「当店では30年前から障害者雇用を実施してきました。雇用者数こそ法定雇用率を超えていましたが、主な職場は、社員食堂での食器洗浄など。その後、社会に広がるノーマライゼーションの空気を意識するうち、『障害者を戦力にできる企業にならなければ。雇用の目的そのものをもう一度、見つめ直そう』と思い至ったのです」そんな思いを実現するためのパートナー役となったのが、同グループの大橋恵子氏。長年、中学校教員として働いてきたが、たまたま個別支援学級を受け持ったことで、障害者たちの働く場所がないことに気づく。そして、「働く障害者たちを支援したい」と、中学校を退職。2006年12月に髙島屋へ入社して得た新たな役割が「ジョブコーチ」である。さっそく翌年、人事グループ内に2名の障害者とともにワーキングチームが結成される。髙島屋横浜店の「障害者の戦力化」プロジェクトはこうして始動した。
●1番のポイント通訳としての「ジョブコーチ」
「ジョブコーチは、障害者と健常者をつなぐ“通訳”です」と大橋氏は説明する。「障害者には“、健常者と同じように働けない人”というイメージがつきまとっています。そんな状態ですから、自分にできる仕事、やりたい仕事など見当もつきません。働くことを諦めてしまっていることも多い。一方、企業側もどんな仕事ならできるかわからず、困惑している。