OPINION1 「粘り強いコミュニケーション」こそAIが活かされる 多様性を活かし人材の価値を最大限引き出す、生成AIの可能性 上田雄登氏 東京大学工学系研究科 技術戦略学専攻 松尾研究室 学術専門職員/株式会社松尾研究所 社長室・経営企画
人事・人材開発分野における生成AIの活用は、まだ進んでいるとはいえない。
しかし、AI研究で著名な東京大学松尾研究室の上田雄登氏は、実はその分野こそ相性がよく、生成AIは人的資本経営に資するのではないかと話す。
生成AIを使ったどのようなコミュニケーションであれば、組織運営に影響力を発揮し、個々の能力を最大限活かすことが可能になるのか。
人事はどのように活用していくべきなのか、話を聞いた。
[取材・文]=平林謙治 [写真]=上田雄登氏提供
人事・人材開発領域への影響必至
日本のAI研究の第一人者である東京大学大学院の松尾豊教授が今年6月の経済産業省の検討会で示した資料には、こう記されている。
「ホワイトカラーの仕事のほとんどすべてに影響が出始めている」と。
ChatGPTをはじめとする、大規模言語モデル(LLM)に基づく対話型生成AIのことだ。米OpenAIのサム・アルトマンCEOは、自社がChatGPTを開発したことを「少し怖い」と感じているという。実際、どんな影響が出るのか。大規模言語モデルの可能性について、松尾研究室は図1の資料を公表している。その影響は、人事・人材開発の領域にとっても例外ではないだろう。
松尾研究室(通称:松尾研)学術専門職員で、経営コンサルタント経験もある上田雄登氏は、「例外ではありません。影響は出ると思います」と明言し、「ただし……」と続けた。
「その影響は、むしろポジティブなものになるでしょう。人は、AIと対話するだけでは育ちませんから。組織の現場では、マネジャーが上長からの指示を受けとりつつ、部下により具体的な指示を出したり、アドバイスを送って、彼ら彼女らのモチベーションを高めたりしています。つまり、コミュニケーションが人材育成の重要な要素になっているわけですが、このコミュニケーションについては、人間とAI、それぞれに得意不得意があることを、まず認識しておかなければなりません。お互いの得意な部分をAIと分担し、共同で取り組んでいくことが、中間管理職全般の育成能力、マネジメント能力の底上げに資するのではないか。何よりもマネジャー自身が開花し、イキイキと輝くことにつながるのではないか。我々はその可能性を信じているのです」
ChatGPTなど対話型生成AIを、DX推進や社内の業務効率化に活用する動きは日本国内でも加速しつつある。松尾研にもそういった趣旨の相談や問い合わせは増えているが、人材開発・組織開発に関するものは現状、まだ多くないという。
上田氏が指摘する「AIのポジティブな影響」への理解が進んでいないのも一因ではないか。本稿でそれをひもといてみたい。