OPINION2 不安の除去と職場のサポートがカギ 若手社員の意欲を高める 「組織社会化」のアプローチ
若手社員が企業の中で高いモチベーションをもって働くためには、組織への適応と帰属意識の向上が欠かせない。
その「組織社会化」を進めるには、入社直後の働きかけが重要だ。
彼らの潜在能力を引き出し、働きがいをもたらす方法とは。
組織社会化研究の第一人者、学習院大学の竹内倫和氏に話を聞いた。
“組織への適応”の重要性
「組織社会化」という言葉を聞いたことはあるだろうか。これは、個人が企業や職場といった“組織”の文化や価値観を受容・共有し、適応していくという“社会化”に向けた一連のプロセスを意味する。社員がこの組織社会化に成功すれば、組織の中での自分の役割や存在意義を認識できると同時に、組織のために頑張りたいという気持ちが生まれる。つまり、仕事に対するやる気やモチベーションの向上につながるのだ。
その中でも、私が研究を進めているのは、新入社員の組織社会化についてである。研究の核となるのが、新入社員数百人を対象に毎年入社時に行うアンケート調査だ。「組織コミットメント」「個人-組織適合」「転職意思」「仕事へのモチベーション」「個人-職業適合」の5つの概念に基づいた設問に対し、「そう思う」「そう思わない」などの度合いを回答してもらう。さらに入社1年後、2年後に追跡調査を行い、回答の経年推移や概念ごとの関連性などについて検討を行っている。
若手社員の意欲や帰属意識は、どのように変化するのか。調査では、入社後時間がたつにつれ、仕事に対する意欲や会社への帰属意識が低下し、逆に転職意思が高まる結果が出ている(図1)。また近年、入社直後から3カ月ごとと、間隔を短くして調査を行っているが、この傾向は入社初期から生じていることが分かる。そして入社後に若手社員が組織社会化から遠ざかっていく傾向は、採用市場の好・不況や時代に左右されず、常に見られるものなのだ。
若手社員の「組織社会化度合い」が低下する要因は、いくつか考えられる。しかし、ひとつ言えることは、企業が行うべき入社初期のモチベーションケアについては、モチベーションを“上げる”ことよりも、できるだけ“下げない”、あるいは低下してもその“下げ幅を最小限にする”働きかけだということだ。なぜなら、通常であれば下がっていくモチベーションを無理に上げようとしても、双方の意識の乖離が激しく、効果を発揮しないケースが多いからだ。
モチベーションの下げ幅を縮小するためには、まず入社直後の若手社員の心理を理解する必要がある。そのキーワードとなるのが「不確実性(uncertainty)の除去」である。
新入社員は、学問を教わる学生から組織の中で働く社会人へと、それまでに経験したことのない立場への移行を迫られる。その時、彼らは社会人として「何をしたらいいのか分からない」、さらに「どのように行えばいいのか分からない」という、2つの不確実性を抱えている。特に「まじめで堅実」「チャレンジをしない」と方々で言われている最近の若者たちにとって、この不確実性が不安となり、強いストレスになることは想像に難くないだろう。
不安は、仕事に打ち込むことの阻害要因になりうる。彼らに本来持っている能力を発揮させるためにも、不確実性の除去は大切であり、若手社員の組織社会化に欠かせない。