CASE2 松田産業|自社の強みを再整理 戦略的開示で株主、求職者、従業員への知名度向上を目指す 和田正幸氏 松田産業 取締役 執行役員 人事部長 他
80年以上前の創業当初からサステナブルな環境・社会の構築と人への投資を実践してきた松田産業。
同社にとっても初めての人的資本開示に向けて、どのようなことに留意し準備してきたのか。
キーパーソン2人に話を聞いた。
[取材・文]=菊池壯太 [写真]=松田産業提供
創業当時からサステナビリティを実践
松田産業は1935年に創業した異業種混成型企業だ。「異業種混成型」とよばれる所以は、「貴金属」と「食品」という2つの異なる分野で事業展開を行っていることによる。同社は、主にフィルム写真の感光材料や写真の現像に使用される薬品の廃液などから銀を抽出してリサイクルする貴金属関連事業からスタートした。事業拡大と並行して始めたのが食品製造工場で不用となっていた卵白を水産練製品業界に販売する事業だ。
貴金属関連事業と食品関連事業、業種は異なるものの、双方に共通しているのは、廃棄されたり不用と見なされたりするものに対して新たな価値を生み出し事業化したことだ。取締役執行役員人事部長の和田正幸氏(以下、和田氏)は以下のように語る。
「いずれも、『もったいない』という気づきと、事業化への創意・挑戦から生まれた事業です。このことは創業精神として現在も引き継がれ、『限りある地球資源を有効活用し、業を通じて社会に貢献する』という企業理念へとつながっています」
ESG(図1)や、今日的な社会課題であるSDGsといった概念がまったく確立されていない創業時から、いわば時代を先取りする形で成長を続けてきたことが特徴の会社だといえる。
独自の理念冊子と人間尊重の取り組み
もう1つ、同社の特徴として挙げられるのが、人間尊重の理念だ。「人間尊重・人間の能力は無限である」こと、そして「企業における何よりの財産は人である」という基本理念を掲げ、すべての社員が個性や能力を発揮できる健康で明るい職場を整備する取り組みを行っている。
「人間尊重と人間の能力は無限と捉え、創業当時から研修等の社員教育を継続して実施してきました。人的資本がトレンドワードとなる前から、当社では人への投資を積極的に行っていたのです」(和田氏)
企業理念を含む、基本的価値観・理念、行動指針などを独自の理念冊子にまとめ、「松田虎韜巻」と名付けて全従業員に配付されている。「虎韜巻」とは、古代中国の軍師・太公望が語った言葉をまとめたとされる兵法書「六韜」の第二巻「虎韜」に由来するもので、いざというときに頼りになる「虎の巻」をイメージしたものだ。