企業事例3 マネジメント力を育て 変化をリードできる管理職を育てる
激化する競争の中では、実務を実直にこなす能力を磨くだけでは勝ち残ることはできない――そのことを痛感し、変化をリードできるマネジメント層の育成に乗り出した大阪製鐵。もともと真面目に学習する風土が醸成されていた同社が、マネジメント層に何を求めているのか、求めることをどのように学んでもらおうとしているかを紹介する。
全管理職を対象に研修を実施マネジメント力を強化
新日本製鐵グループの中核電炉メーカー、大阪製鐵(大阪市中央区)が、教育体系の構築に乗り出したのは、2009年である。同年、教育専門の担当役員であるCLO(=Chief LearningOffi cer)を新設するとともに、階層別教育、スキル・専門知識の教育からなる教育体系を構築した。これに基づき、2010年には、新任・既任の全管理職者を対象に、「シニアマネジャー研修」などの管理職研修を実施。全社のマネジメント能力の底上げを目標としている。同社では、それまで教育の中心は昇格者を対象とした社長の訓話や安全教育などだった。真面目で堅実な社風もあり、日々の業務をこなすにはOJTで十分だったともいえる。そもそも非常に競争が厳しい電炉業界にあって、同社では業務の効率化が進められ、より少ない人員で運営できる体制が構築された。そのため、人材の採用も、退職者が出た際にそれを補う形で都度行う程度。時には、10年近く新卒者を採用しない時期もあり、ベテラン社員のすぐ下は10歳以上離れた若手ということもあった。そうした背景もあり、昇格者研修といっても、3年に一度の実施になることもあったという。それでいて、「事務用品1つ買う場合でも、本当に必要かどうかを考えます。接待費などは1000円単位で社長自らチェックします」(調氏)というほど徹底したコスト管理体質や真面目で実直に業務をこなす風土は着実に受け継がれていた。また、役員がそれぞれ仕事とは直接関係のないテーマを選び、持ち回りで研究結果を全社員の前で発表するなど、率先垂範で学びの重要性を伝えていた。「発表したテーマには、『五重塔はなぜ倒れないか』、『鉄鋼業の歴史』といった業務とは直接関係のないテーマが選ばれました。仕事に関するものばかりだと、知らないうちに守りに入り、視野も狭くなります。仕事と直接関係ないことをあえてテーマにすることで、幅広い知識を主体的に学ぶ重要性を社員に訴えたかったのです」(調氏)このように地道に学ぶ風土があった同社が、改めてマネジメント能力強化に乗り出したのはなぜか?「社員は皆、真面目で実務能力は高いのです。ですが、ともすると日々の業務をこなすだけで満足してしまう傾向があり、このままではいわゆる『タコ壷』化してしまうという危機感がありました。他部門と協業して新たな付加価値を生み出したり、自ら仕事を設計する力が今後当社のカギになると考えたのです」(調氏)