CASE1 荏原製作所|人材版元素記号表で“個”を浮き彫りに マーケティングの力で人的資本経営を深化させる 須田和憲氏 荏原製作所 マーケティング統括部 統括部長
1912年の創業以来、社会・産業インフラを支える製品を生み出してきた100年企業、荏原製作所。
次の100年を輝かせる人創りのために打ち出したのは、技術と人を見える化する同社ならではの仕掛けだ。
多様な人材を輝かせ、「競争し、挑戦する企業風土」を実現していく姿を追った。
[取材・文]=西川敦子 [写真]=荏原製作所提供
「次の100年」のための大胆な風土改革
人的資本情報開示のスタートは2013年と、他社に先行してサステナビリティ経営に注力してきた荏原製作所。事業領域は祖業の風水力機械を核とする建築・産業事業、インフラ事業、エネルギー事業、環境プラント事業、精密・電子事業の5つ。ポンプ、冷熱機械、送風機、コンプレッサ・タービン、都市ごみ焼却プラント、半導体製造装置など、主力製品は多様だ。
マーケティング統括部長、須田和憲氏は言う。
「世界でも数少ない大型鋳物製造、特殊機械加工等により、口径数メートルに及ぶ大型ポンプを作るかと思えば、μm(マイクロメートル)レベルの高精度加工にもこだわる。卓越した技術力とものづくりを支えているのは“人”に他なりません。この信念は1912年、渦巻ポンプを開発し、大学発ベンチャー企業として創業したときから不変です」(須田氏、以下同)
創業者の故・畠山一清氏が唱え、現在もグループの基本精神とされているのが「熱と誠」だ。「与えられた仕事を単にこなすのではなく、自ら創意工夫する熱意をもって誠心誠意これにあたり、本人も会社も成長する」との意味である。
しかし、他の日本の伝統的大企業と同様の課題もあった。たとえば
・日本中心の思考
・変化への対応の遅さ
・プロダクトアウト志向
・ファクト軽視の議論
などの問題だ。
100年企業ならではの安定志向や閉塞感とも無縁ではなかった。
そこで同社は、2017年に策定した中期経営計画『E-Plan2019』で「競争し、挑戦する企業風土」の方針を打ち出し、100年先も続くリーディングカンパニーであるために、変化にスピーディに対応できる人材マネジメントの高度化に本腰を入れ始めた。そして2019年に取締役代表執行役社長となった浅見正男氏は、就任スピーチで次のように従業員に訴えた。
『荏原が変わるために、まず皆さんが変わりましょう!』
「100年続いてきた老舗企業なのだから、これからも変わる必要などないと、変革に抵抗感を抱く人もいたと思います。しかし、トップ自ら声を大にして危機感を訴えたことで従業員の意識は明らかに変わり始めました。挑戦するマインドを取り戻そう、次の100年先も続くグローバルエクセレントカンパニーに育てていこうという社長の浅見の思いが浸透していったのです」