企業事例1 旭化成 4象限に基づくミドル研修により役割を明示しミドルの育成に注力
“人を育てる”企業風土を特色としてきた旭化成が、会社の中核を担うミドル層に向けたマネジメント研修を2009年にスタートさせた。研修の特徴になるのは、ミドルが現場で困ったり葛藤していることをヒアリングしたうえで「人財理念」を実践しやすくするよう「マネジメントの4象限」の形に落とし込んだ点だ。旭化成が立ち上げた4象限に基づくマネジメント研修の具体的な内容を紹介していく。
増大する業務負荷と部下指導・育成に苦悩
報告書『ミドルマネジャーをめぐる現状課題と求められる対応』をまとめたのは、経団連の人事・労務委員会と同委員会の政策部会である。人事・労務委員会は経団連の企業会員の経営者・役員クラスの方々が中心メンバーになっているのに対し、政策部会は、実務に携わる人事労務部門の管理職の方々が中心となって活動しており、具体的な検討は政策部会で行った。
ミドルマネジャー問題をテーマに検討することになったのには前段がある。経団連が2010 年5月に公表した報告書『経営環境の変化にともなう企業と従業員のあり方』をとりまとめる議論の中で、職場における課題として「ミドルマネジャーをめぐる問題の解決」を挙げる意見が多かったことだ。
それを踏まえて当委員会では、ミドルマネジャーに関する問題を次の検討テーマに設定した。
本格的な議論に入る前に、ミドルの実態を把握するための調査を実施。現場のミドル(40歳前後の中間管理職が中心)314名、加えて経営トップ55名から回答を得た。
調査の結果、ミドルマネジャーの現状に対する認識として、次の2点が明らかになった。
1.業務量が増大する中、プレーヤーとしての活動を余儀なくされ、増大する業務負荷への対応と部下の指導・育成に苦悩している。
2. 職場に対する全体的な満足度は高いが、自社の教育訓練施策、業務量、人員面に関して低い。
また、経営トップの回答からは、自社のミドルマネジャーの働きぶりに対しては、高い満足度を示しているものの、「部下のキャリア・将来を見据えた指導・育成」と「経営環境の変化を踏まえた新しい事業や仕組みの企画立案」については、十分に役割を果たせていないと認識していることがわかった。
これらの調査結果をもとに、1年半以上にわたる議論を重ねてまとめたのが、今回の報告書『ミドルマネジャーをめぐる現状課題と求められる対応』である。
多岐にわたるミドルの基本的役割
報告書とりまとめに向けた議論は、ミドルマネジャーの基本的な役割を整理することから始めた。検討した結果、ミドルに求められる基本的な役割を以下の4つに集約した。
①情報関係
社内外の情報を収集し、周辺状況を分析して伝達する役割をさす。議論の中で重視されたのは、経営トップが示す方針をただ部下に伝えるのではなく、咀嚼して、自分の言葉で自らのチームがめざす方向性を明示すること。ミドルマネジャーには、経営トップと現場をつなぐ「連結ピン」としての役割が期待されているが、実際はできていないとの指摘が多い。この背景として、ミドルに限らないことだが、「解答」をすぐに求めたがる傾向が強まっていることや、考える力自体が低下していることなどを挙げる意見があった。
②業務遂行関係
いわゆるマネジメントである。自らもプレーヤーとして仕事の成果を上げながら、日常業務の処理や課題解決を図っていく――こうした基本的な役割に加えて、近年は、「新規事業やプロジェクトの推進」「イノベーションの創出」「グローバル化への対応」といった新しい役割も期待されるようになった。だが、現状は、新しい役割はおろか、基本的な役割すらこなせないほど、ミドルは傷んでいるのではないかとの声も多い。