CASE3 大日本印刷|キャリア自律支援や組織風土改革も 登用までの準備期間により醸成される管理職としてのマインド 小野寺 純子氏 大日本印刷 人事本部 人事部 エキスパート|河内杏里氏 大日本印刷 人財開発部 キャリア開発・階層別研修グループ リーダー
新たな価値の創出を加速させるため、多様な人事諸制度の再構築に取り組む大日本印刷(DNP)。
管理職については、登用前に必要なマインドを醸成するためのプロセスを導入。
さらに、研修などを通じて部門を越境した交流を促したり、多様なキャリア自律支援策を導入するなど、生き生きと働ける組織環境を整備し、ポジティブ管理職の育成につなげている。
その取り組みの詳細を聞いた。
[取材・文]=増田忠英 [写真]=大日本印刷提供
管理職に必要なマインド習得のプロセスを導入
1876年に創業した大日本印刷(以下、DNP)は、1950年代に印刷技術を応用・拡大し、情報コミュニケーション、生活・産業、エレクトロニクスへと事業領域を拡大した。これを同社では「第二の創業」とよんでいる。そして現在は、従来の「得意先課題の解決」から、「我々自身が直接生活者と向き合い、DNPが主体となって社会の課題を解決するとともに、人々の期待に応える価値を提供する」という大きな変革を「第三の創業」と捉え、その達成に取り組んでいる。新しい価値の創出を加速させるため、同社は2019年度からの3年間、人事諸制度の再構築に取り組んできた。その1つに、2021年度に導入された「管理職課長登用プロセス」がある。
「以前は管理職登用の明確な基準がなく、課のなかでベテランになった人や、大きな成果をあげた人などが課長に選ばれることもよくありました。そのため、昇進後も従来のプレーヤーの役割を続けてしまったり、周囲から『なぜこの人が課長になったのか』と思われてしまう懸念もありました。こうした問題意識もあって、早い段階で管理職登用への可能性を打診し、必要なマインドや知識を事前に身につけたうえで課長に登用するプロセスを導入することにしました」
こう話すのは、人事部の小野寺純子氏。現在は、一定の等級・考課以上であることを要件に各部門で人選を行い、そのうえで、一部例外はあるものの、約2カ月間の管理職課長登用プロセスを修了し、マネジメント基礎研修を受講して、課長もしくは課長補佐に登用する流れが基本となっている。
視座を上げる気づきを得るための「マネジメント基礎研修」
管理職課長登用プロセスでは、課題図書や労務管理の基礎知識の習得、論文作成などいくつかの課題が用意されている。そして、管理職課長登用プロセス修了者が受講する「マネジメント基礎研修」は、1日のオンライン研修である。研修を始めた背景について、人財開発部キャリア開発・階層別研修グループリーダーの河内杏里氏はこう話す。
「以前は管理職になると、すぐに課長としての実務が始まり、まったく未経験のなかで対応しなければならないため、管理職になることを躊躇してしまうという現場からの意見がありました。そこで、課長になるにあたって必要なマネジメントとリーダーシップの教育を事前に受けた方が良いと考え、マネジメント基礎研修を新たに実施することにしました」
マネジメント基礎研修は、同社の階層別教育において「新任上級職研修」と「課長マネジメント実践研修(新任管理職課長向け研修)」の間に位置する(図1)。新任上級職研修は課長手前の中堅幹部クラスを対象としており、自ら主体的に行動することをテーマに、プレーヤーとして自分の仕事のなかでどのようにリーダーシップを発揮していくかを学ぶ。一方、課長マネジメント実践研修では、マネジメントの権限が与えられるため、マネジメントとリーダーシップの両方を発揮することを学ぶ。その間に位置するマネジメント基礎研修では、マネジメント職位がない状況のなかで、組織の課題を自分事として捉え、周囲を巻き込んでリーダーシップを発揮し、課題解決に導くための方法を学ぶ。