Vol.4 「自律した個」の関係性から生まれる組織の創造性 小池陽子氏 ライオン 執行役員 人材開発センター部長|佐宗邦威氏 戦略デザインファーム BIOTOPE CEO / Chief Strategic Designer
人的資本経営の重要性が増しているいま、新たな組織の形が求められている。
人事はどのように、価値を生み出す人・組織をつくるべきか。
第4回のゲストは、ライオン。
組織の価値創造の鍵として「自律した個」を重視している。
佐宗邦威氏と共に、「人的資本経営」を実現する組織と個人の在り方を探る。
[取材・文]=村上 敬 [写真]=山下裕之
パーパス策定への思い
佐宗
ライオンは2018年に新しいパーパス(存在意義)を定めました。どういった背景があったのでしょうか。
小池
一番の背景は、変わらなくてはいけないという意識です。経営視点では、事業面において環境が変化するなかで、ライオンがどのように社会に価値を創出していくのか、社会的存在意義をもう一度明確にして同じ方向を向いていく必要がありました。同時に、社員からも様々な提案があり、自分たちも変わっていきたいという機運は高かったと思います。経営と社員の両方からの動きが背景にあって、ライオンの理念を整理して共有することになりました。
佐宗
パーパスは「より良い習慣づくりで、人々の毎日に貢献する(ReDesign)」。「習慣づくり」という掘ると深みのある概念を扱っている点が印象的です。
小池
ライオンはモノの販売と同時に、広告や教育現場での指導などを通して、歯みがきや手洗いなどの習慣づくりをしてきました。習慣づくりこそが私たちが提供する価値。そこで、2021年からパーパスを「より良い習慣づくりで、人々の毎日に貢献する(ReDesign)」として明瞭化しました。さらにパーパス実践のために、日々の考え方・行動・判断の拠り所として「価値は顧客が決める」「自分の心に従い、自ら動こう」など5つの「ビリーフス(BELIEFS:信念)」を定めました。
佐宗
パーパスの策定が個人や組織の創造性にどのようにつながっていくと思われますか。
小池
まず全体の構造をお話しします。ライオンは2030年に向けて「次世代ヘルスケアのリーディングカンパニーへ」という経営ビジョンを掲げています。このビジョン実現に向けて、パーパスを起点として「サステナビリティ重要課題への取組み強化」と「3つの成長戦略の推進」を実施しています。3つの成長戦略の1つが、「変革を実現するダイナミズムの創出」。この変革のベースになるのが人や組織です。社長の掬川(正純氏)は、「個人がハッピーでなければ組織もハッピーにならない」と言っています。個人のハピネスを会社が支援してこそ、個人の生産性が高まり、それが会社の生産性向上、そして価値創造へとつながります。
そして個人と組織が活性化するときに欠かせないのが、「自律した個」です。一人ひとりの従業員が相互に刺激し合い、「自律した個」の躍動によって組織全体に変革の波をもたらしていくのです。この考え方に基づいて、社員が自律してイキイキ、ワクワク働くことを目指して19年7月にライオン流「働きがい改革」を宣言しました。その取り組みと、パーパスを実践する企業文化への変革を合わせて、持続的に成長する企業になろうとしています。これが全体像です。
佐宗
私が外から見ていたライオンのイメージは「組織力」でした。「自律した個」に舵を切るのは、踏み込んだ決断だったのではないでしょうか。