第10回 専門職の自律的なキャリア形成 藤間美樹氏 積水ハウス 執行役員人財開担当|中原 淳氏 立教大学 経営学部 教授
一筋縄では解決ができない人事・人材育成のお悩み。
今日もまた、中原淳先生のもとに、現場の「困った!」が届きました。
今回のテーマは「専門職の自律的なキャリア形成」。
前回に続き、ゲストに積水ハウス執行役員人財開発担当の藤間美樹氏をお迎えし、リアルな現場のお悩みに答えていきます。
[取材・文]=井上 佐保子 [写真]=藤間美樹氏提供
専門職に対してキャリア教育は必要か?
中原
伝統産業で働く職人さんたちのキャリア自律に向けての教育についてのご質問です。技術の継承も必要だが、革新も必要……ということのようです。どう思われますか?
藤間
専門職の職人さんに、キャリア自律のための教育を、とのことですが、私は職人さんにキャリア教育は必要ないのではないかと思っています。
中学生のとき、建築の仕事をしていた祖父と日本三名園の一つ、岡山の後楽園を訪れた際、祖父がそこにある日本家屋を指して、「これはワシがつくったんじゃ」と誇らしげに教えてくれました。そのときはなんとも思わなかったのですが、人事の仕事に関わるようになって、ふとそのことを思い出し、「引退後、孫に自分の仕事を見せるという光景こそがキャリアビジョンなのかもしれない」と感じました。自分自身の力でものをつくりだす職人さんの仕事というのは、それ自体が立派なキャリアなのではないかと思います。だからこそ、あまり生産性や効率性ばかりを強調してしまうと、白けてしまいますので、マネジメント側がモチベーションを高められるよう接し方を工夫する必要があるように思います。
中原
示し合わせたわけではないのですが、まったく同感です。専門職の職人さんを続けること自体がキャリアだと思うからです。
キャリアとは職業や職位、地位などの外的キャリアと、働く意味ややりがいなどの内的キャリアの2つがあるとされています。しかし、これはあくまでホワイトカラーの人にとっての話であり、これを専門職の職人さんに無理やり当てはめて語る必要はないと私も思います。
そもそも専門職というものにはいくつか条件があります。知識や技術があり、自分の志によって仕事ができること、さらには自発的に知識や技術をアップデートできること、というものまで含まれています。つまり、専門職にとっては、「キャリア自律できている」ということは前提条件なのです。