第6回 次世代経営人材育成の進め方(後編) 有沢正人氏 カゴメ 常務執行役員/CHO|中原 淳氏 立教大学 経営学部 教授
一筋縄では解決ができない人事・人材育成のお悩み。
今日もまた、中原淳先生のもとに、現場の「困った!」が届きました。
前回に引き続き今回のテーマも「次世代経営者育成」。
ゲストにカゴメCHOの有沢正人氏をお迎えし、リアルな現場のお悩みに答えていきます。
※この記事は2022年3月14日に行われたイベント「中原淳教授の今日も現場は問題だらけ オンライン収録大公開! カゴメCHO有沢正人氏と語る『次世代経営人材の育成』」の内容をもとに再構成したものです。
[取材・文]=井上 佐保子
社外から自社を見つめる目を養う
中原
次世代経営人材育成向けに研修などの教育プログラムを企画する場合、どこまでどのように外部に任せればいいのか、というご質問ですね。そもそも次世代の経営者候補というのは、部長層など、知識も経験も豊富で能力の高い人ばかりです。そうした人たちに対して社内講師が講義をしたり、ファシリテーションしたりするのは、正直、かなり難易度が高いと言わざるを得ません。特に、耳の痛いことを伝えなければならない場合などは、外部のコンサルタントに依頼しなければ難しいように思います。有沢さんはいかがですか?
有沢
カゴメでも、役員候補や部長候補への研修プログラムなどは、ほとんど外部の方にやっていただいています。やはり社内講師ではどうしても恣意性があるのではないか、という気持ちが働いてしまってうまくいかない可能性があるからです。また、次世代経営人材向けの研修では、外からの視点、新しい視座を積極的に取り入れる必要があると考えています。
中原
同感です。人材育成においては、階層が上がれば上がるほど、社外から自社を見つめる目が必要になります。残念ながら、30年ずっと社内にいて、社内しか見てこなかった人が、世の中を驚かせるような新商品をドカンと出す、ということは難しいのではないでしょうか。
外からの視点を得るためには、「越境学習」といわれる、社外で学んだ経験や知識を社内に持ってくるような学びが求められます。私は、キャリアのどこかで一度、社外の「釜の飯を食う」経験を持つことが大切だと感じます。他社に行ってみる、他社の人たちと共に学ぶ、あとは公務員として国の仕事をしてみるのもいい。ビジネスを通していかに社会を良くしていくか、といった視点をもらえるような人と組み、一緒に仕事をしたり学んだりする経験が持てるとなおいいと思います。
外部と連携する際に大切にしていること
中原
外部パートナーと連携して研修プログラムを開発する際、有沢さんが大切になさっているのはどのようなことですか?
有沢
まずは自社のDNAを理解し、きちんと守ってもらえる、ということが大前提です。いきなり「カゴメさん、ケチャップとトマトジュースはもうやめましょう」などと言われては困るわけです(笑)。我々の経営戦略と理念、歩んできた歴史といったものを踏まえて、どんな人材を求めているのかを理解していただいたうえで依頼をしています。
中原
具体的にはどのような方法で外部パートナーを選んでいますか?
有沢
秘密保持契約を結んだうえで、カゴメの社内史と今までの中期経営計画の資料を渡し、「これらに目を通し、全部理解してから提案してください」とお願いしています。今のカゴメは120年以上の歴史の延長線上にあるわけです。これまでにどんな経緯があり、どんな思いでやってきたのかを社内史と中計から理解していただいたうえでご提案いただいています。外部の方からは「こんなに資料をお渡しいただいたのは初めてです」と驚かれますが、せっかくお願いするのであれば、それぐらいはやっていただかないと、と思っています。