個を活かす│リバースメンタリング “教える-教わる”の立場逆転で深まる相互理解 藤井勇成氏 スリーエム ジャパン Learning Facilitation & Delivery, Global Learning, Global HR
若手が年長者のメンターとなるリバースメンタリング。多くは世代間のデジタルリテラシー格差解消の手段として導入されているが、工夫しだいで世代を超えた理解促進や互いの成長につながる手段にもなり得る。その効用に着目し、多様性推進を目的にリバースメンタリングにいち早く取り組んだのが3Mだ。グローバル人事で運営を担う藤井勇成氏に聞いた。
[取材・文]=たなべやすこ [写真]=スリーエム ジャパン提供
若手と年長者逆転のメンタリング
新入社員のオンボーディングや人材育成を目的に、メンタリングを取り入れている企業は少なくない。直属の上司や先輩とは異なる“斜めの関係”が視野を広げ、組織理解や仕事観、キャリア観の深化を促す。また、メンタリングを受ける側(メンティー)だけでなく、助言する側(メンター)の自己成長にもつながる。
通常、メンターとメンティーは、年長者(上級管理職など)-若手(一般社員)の組み合わせが定石だ。しかし昨今、この関係を入れ替えた「リバースメンタリング」が注目を集める。若手がメンターとなり年長者の相談相手や助言者を担う手法は、インターネットの急速な普及に端を発する。
リバースメンタリングを国内で2018年に導入し、現在ではグローバルでの運営を試みる、化学・電気素材メーカー大手の、スリーエムジャパン(以下、3M)Learning Facilitation & Delivery, Global Learning, Global HRの藤井勇成氏は、次のように説明する。
「リバースメンタリングは1990年代後半に、アメリカのGEで年長者がICTの動きや使い方を、若手から教わるのを目的に始まったと言われています。単なる勉強会で終わらせず、ジェネレーションギャップを理解し、関係を深める意味で、巧みな方法だと感じました」(藤井氏、以下同)
3Mは有数のグローバル企業だが、アットホームな社風が特徴だ。本社があるアメリカでも従業員の定着率は高く、定年まで勤め上げる人も多い。親子二代にわたり、3Mに入社したケースもあるという。エンゲージメントの高さは、フランクな関係性を重視した風通しのよさと無関係ではないだろう。
「当社には4つのビジネスグループがあり、自動車分野の技術をヘルスケア分野へ応用するなど、相互の垣根を超えた融合が活発に行われています。源泉となるのは、軽い相談や言葉のやり取りです。人を介したアイデアの発散がデータやロジックを超えたクリエイティブをもたらすことを、感覚で理解しているのです」
このような企業風土だけに、メンタリングに重きを置くのも自然な流れだ。リバースメンタリングの発端から、一般的にはデジタルリテラシーの向上を目的に取り入れる企業は多い。だが3Mの狙いは、あくまでもダイバーシティ・エクイティ(公平性)&インクルージョン(以下DE&I)の推進だという。
「もちろん新しい知見を得る目的で、若手社員からデジタル分野のトレンドや生活様式を聞くこともあります。でも一番の目的は、属性を超えた相互理解です。若手の価値観や感覚に触れ、『こういう人材が3Mにいるんだ』と知ってもらうことで、組織の新たなストロングポイントを見いだしたり、双方の成長を促すことを狙いとしています。関係の醸成を通じ、個々の多彩な知恵やポテンシャルを生かす組織の土壌を築いていくという考えです」
人事のフォローとマッチングが成功の鍵
日本での導入のきっかけは、当時の社長のアイデアだ。経営者合宿で国内のDE&I推進について議論したとき、前年まで赴任していた中国でのリバースメンタリングの体験談が役員たちの関心を誘った。
「おそらく社長は、日本の同質性の高い状態に危機感を持っていたのだと思います。日本法人は、日本企業の資本が入る形でスタートしました。比較的日本色の強い組織で、当時の管理職の女性比率は2割。従業員構成もミドル層が多く、今後よりグローバル化を図るうえで、若者の意見や考えを十分に掬い上げる仕組みを必要としていたのです」
そこで初年度は役員17名をメンティーとし、試験的にリバースメンタリングを行うことにした。
気になるのはメンターの選定方法だ。入社4、5年目の社員を対象とし、公募制とした。また、別途ハイポテンシャル人材としてベンチマークする若手社員にも、人事から声をかけた。
運営面での懸念点は、関係の“逆転”が機能しないことだった。年長者側が若手に対して論じたり、若手が役員を前に忖度したりではメンタリングの意味をなさない。回避策として、役員1人に対してメンターを2人つけることにした。数を使ってパワーバランスの均衡を保とうとしたのだ。
「今振り返ると取り越し苦労だったかなと思うところもあります。実際にやってみると、意外とすぐフラットな関係が築けていたからです」
事も無げに話す藤井氏だが、うまくいった背景には人事側の丁寧なマッチングがある。当時のマッチング手順を紹介しよう。