OPINION2 “評価”へのネガティブな印象の改善を 研修設計と同時に進めるオープンな評価設計が経営課題に資する人材育成につながる 寺田佳子氏 インストラクショナルデザイナー/IDコンサルティング 代表取締役
経営戦略の実現に寄与する人材育成を行うには、研修で学んだことが現場で活かされているかどうかを評価することが不可欠だ。
その評価を、さらなる人材育成や研修の改善につなげるために大切なことは何なのか。
研修評価に詳しいインストラクショナルデザイナーの寺田佳子氏に聞いた。
[取材・文]=増田忠英 [写真]=寺田佳子氏提供
経営戦略に基づいた人材の課題を抽出
「人事制度がメンバーシップ型からジョブ型へと変化するなかで、研修の在り方も、組織が一律に受講させるものから、自らのキャリアプランや現場のニーズに即して足りないスキルを自律的に開発するものへと変化してきました。それだけに、研修に対する満足度だけでなく、学んだ内容を身につけ、仕事に応用できているか。さらに業績向上に結びついているかまできちんと評価することが、ますます重要になっています」
そう話すのは、日本イーラーニングコンソシアム副会長や熊本大学大学院で研修評価に関する講師を務める、インストラクショナルデザイナーの寺田佳子氏だ。
寺田氏は「最適な学習効果のための教育設計」を意味するインストラクショナルデザイン(以下、ID)の考え方に基づき一連の研修を組み立てている。昨今「人的資本経営」の注目度が高まり、経営戦略に基づいた人材戦略・育成の重要性が見直されているが、その考え方はIDにおいては基本の「き」だと寺田氏は言う。
「研修を設計するには、まず自社の経営戦略を理解しなければいけません。そして、その経営戦略を実現するために必要な人材を明らかにし、既存の人材では不足する部分を外部から調達するか、あるいは社内で育成するかといった人材戦略を立てます。その『育成』の部分において、どういう時期にどういう環境でどういう手法をとれば一番効率的に育成できるか。その設計を行うのがIDです」
ポイントは、まず「ニーズアセスメント」から始めるところにある。これは経営戦略に基づいて人材におけるゴール(目標)と現状とのギャップを把握し、研修で解決すべき課題を抽出することだ。その後のプロセスは、一般に「ADDIEモデル」で説明される(図1)。左図(一般的なイメージのADDIEモデル)のように誤解されがちだが、正しいのは右図(実際のADDIEモデル)である。
「ADDIEの最後に行う『評価』は最終的な学習効果を測る総括的な評価です。それだけではなく、節目・節目で修正をしていかなければいけない。ですからADDIEの各段階においても、その都度形成的評価をして軌道修正を図っていくというのがIDの考え方です」