OPINION1 研修評価とは「研修転移」を測ること 経営に資する正しい研修評価とは 島村公俊氏 講師ビジョン 代表取締役
人材開発・組織開発の研究が進むなか、
これまでほとんどアップデートされてこなかった事実を指摘し、
話題をよんだ書籍『「研修評価」の教科書』。
その著者の1人である講師ビジョン代表取締役の島村公俊氏に
これからの研修評価の在るべき姿について話を伺った。
[取材・文]=平林謙治 [写真]=講師ビジョン提供
変われない研修評価
「研修を評価する」と聞くと、あの光景を思い浮かべる人が多いのではないだろうか。研修終了後、1枚のアンケート用紙が配られ、受講者が回答を求められる、毎度おなじみの光景だ。そのアンケートの問いも、研修の企画・運営に携わる人には、やはりおなじみだろう。
そう、「研修の内容には満足しましたか?」―― 研修の満足度を問う質問項目である。受講者は5段階の尺度などで回答。研修担当者がその結果を集計し、「『とても満足』と『満足』の合計が9割を超えたので研修はおおむね成功です」などと、上司や経営層に報告する……。
「多くの企業が満足度を軸に研修評価を行っている状況でしょう。それが日本における研修評価の現状です」と、指摘するのは講師ビジョン代表取締役、島村公俊氏だ。前職の大手企業で研修の内製化を推進し、100名を超える社内講師を育成した、研修開発のエキスパートである。
「最近はオンライン研修が普及し、紙からWeb上のアンケートフォームに移り変わりつつありますが、メディアがデジタルに変わっても、研修直後にアンケートで受講者の満足度を測り、それをもって研修の良し悪しを評価するという手法そのものは、少なくともここ20年間、ずっと変わっていません」(島村氏、以下同)
2000年代以降、人材開発・組織開発の研究は著しく進化し、新しい理論から数多くの実践が生まれた。しかし、島村氏によれば、そうした人材開発の変化や発展にもかかわらず、一方でほとんどアップデートされないまま放置されてきた領域がある。それが「研修評価」に他ならない。
なぜ、我が国の研修評価は変われなかったのか。なぜ、満足度を測る手法が慣習化し、何十年間もアップデートされずにいたのか。島村氏は、次のように分析する。
「そもそも前例踏襲の風土が根強いので、前年度まで使っていた満足度評価をあえて見直そうという話にはなかなかなりません。人材開発の担当者の立場からすると、企画・開発や調整など研修の前段階の業務が多忙すぎて、最終工程の評価にまで手が回らないという事情もあります」
それだけではない。満足度評価が踏襲される背景には、より本質的な問題が潜んでいる。「研修担当者と現場の責任者と外部の研修会社の間に一種の“共犯関係”が生まれやすく、研修評価の現状を改善しようというモラールが働きにくくなっている」というのだ。
「研修の評価で悪い数値が出ると、研修を企画運営した担当者が責任を問われます。だから、研修担当者はへたに評価方法をいじりたくない。上司への“忖度”が働くことから、良い結果が出やすい満足度の測定をもって、無難に評価を済ませたいと考える傾向は否めません。一方で、現場はとにかく忙しい。にもかかわらず、部下を研修に駆り出すわけですから、マネジャーにしてみれば、実施後の評価にまで時間や手間をとられたくないというのが本音でしょう。終了直後に1回満足度を測るだけの従来の手法は、現場にも好都合なんです」
そして、「外部の研修会社も同様です。高い評価の方がリピートしていただきやすいので、安易に評価方法の改定に踏み込めないこともあるわけです」と続ける。
満足度は行動変容に結びつかない
こうした人事部門と現場と研修会社の“共犯関係”が続く限り、研修評価の改善は進まないと、島村氏は強調する。