OPINION3 適切な行動変容で組織に変化を起こす 腹落ちを生む“気づき”と“学び合い”の仕掛け方 鈴木竜太氏 神戸大学大学院 経営学研究科 教授
研修を評価するにあたり重要な視点の1つに、受講者が変化したかどうかが挙げられる。研修から適切な行動変容を生み出すためには、どのような研修設計やアプローチが有効なのだろうか。
また、組織学習につながる気づきは、どのような研修から得られるのか。
現場で学びを活かすための工夫、学び合いのサイクルを研修と現場の双方で回すヒントについて、神戸大学大学院経営学研究科、鈴木竜太教授に聞いた。
[取材・文]=西川敦子 [写真]=神戸大学提供
行動変容を促す2つのアプローチ
米国の心理学者、アブラハム・マズローは「金槌しか持たない人には、すべての問題が釘に見える」と言った。確かに、研修で学んだことをただそのまま何にでも実践・応用すればいいというものではない。釘でないものまで叩きまくるような行動変容では困りものだ。
「しかし、体系的に学びを重ねて自分の道具を引き出しの中に増やせば、身につけたものをいつどう活かすべきか判断するようになります。また、振り返りも重要。様々な経験や試行錯誤、周りのフィードバックから内省を深めることで、学びが気づきへ、さらに適切な行動変容へと結びつく可能性は高まるでしょう」
こう話すのは神戸大学大学院経営学研究科、鈴木竜太教授(以下、鈴木氏)だ。
行動変容を起こすためのアプローチは大きく2つある、と同氏は語る(図1)。
1つは、価値観や考え方を変革することで行動を変える方法、もう1つはマニュアルやルールを変更するなどし、強制的に行動を変える方法だ。
研修で行動変容を起こさせようとする場合は、前者の方法をとることが多い。新しい心掛けや考え方、価値観を変えることは比較的容易であり、研修でも可能だからだ。ただし、心掛けなどが変わったからといって、必ずしも行動を変えられるわけではない、と鈴木氏。
「生活習慣を例に考えるとわかりやすいでしょう。喫煙や過食、飲酒が健康によくないことはみんな百も承知です。しかし我々はなかなか禁煙やダイエットを続けることができません。あるいは、一時的に成功してもリバウンドしてしまったりしますよね」
また、現場に根づいている仕組みや習慣を無視してひとりだけ行動を変えれば、混乱をきたす可能性もある、と指摘する。研修によって行動変容を起こすには、仕事の仕組みやマネジメントも一考する必要があるといえそうだ。