第7回 中途入社社員の組織適応 木下達夫氏 メルカリ 執行役員CHRO|中原 淳氏 立教大学 経営学部 教授
一筋縄では解決ができない人事・人材育成のお悩み。
今日もまた、中原淳先生のもとに、現場の「困った!」が届きました。
今回のテーマは「中途入社社員の組織適応」。
ゲストにメルカリCHROの木下達夫氏をお迎えし、リアルな現場のお悩みに答えていきます。
[取材・文]=井上 佐保子 [写真]=メルカリ提供
オンボーディングの出発点は期待値設定
中原
新入社員には手厚く研修を行っているのに、中途入社社員に関しては現場にお任せ、という会社は少なくありません。中途入社した社員に、組織の一員として定着してもらい、戦力となって活躍してもらうまでの一連の受け入れプロセスをオンボーディングといいます。メルカリではどのようなオンボーディング施策をなさっていますか?
木下
オンボーディング施策の出発点は中途入社される社員に対しての期待値設定です。期待値設定とは、会社からの期待値を明確にするということです。メルカリが社員に期待するのはバリューの発揮です。メルカリでは「Go Bold(大胆にやろう)」「All for One(全ては成功のために)」「Be a Pro(プロフェッショナルであれ)」という3つのバリューを重視しています。まずはそうした期待に沿うような資質を持った方を採用する、ということがスタートになります。
中原
採用時からバリュー重視なのですね。
木下
入社前の時点でメルカリの組織や人に対する考え方を明文化した「Culture Doc」をお渡しし、それに目を通していただきます。Culture Docとは、メルカリのバリューをどう実現していくかを記した原理原則のようなもので、Culture Docを読んで、「ここで働きたい」と思った方だけに入社していただくようにしています。
中原
入社前からカルチャーフィットを見て、納得して入社していただく、というわけですね。
木下
その通りです。Culture Docにはオンボーディングにおける期待値についても、明確な記述があります。入社された方は「3カ月後に自分のポテンシャルをフルに発揮できるようになる」ことが求められます。つまり、3カ月を目安に戦力となれるようベストを尽くしてほしい、というわけです。そして、その責任は本人にあります。Be a Pro、そしてGo Boldのバリューを発揮し、わからないことは周囲に尋ねるなど、攻めの姿勢で自ら動いて主体的に働きかけることで、自分の力を発揮できる環境を整えてほしい、と考えています。もちろん、周囲の人にはAll for Oneのバリューを発揮し、全力でサポートすることが求められます。
中原
周囲の人はサポートするけれども、主体は自分自身にあるというわけですね。とはいえ、部署によっては、受け入れ態勢にバラつきが出たりはしませんか?
木下
はい、やはり部署によって差は出てきてしまいます。我々はそれをできる限り標準化できるよう、受け入れ部署のメンターとマネージャーの方に対して入社前オリエンテーションを行い、受け入れ上手のメンター、マネージャーのノウハウを共有するなどしています。
中原
中途入社される方へのオリエンテーションだけでなく、メンター、マネージャーへのオリエンテーションも行うというわけですね。
中途採用の社員は即戦力だと思われていますが、実は入社しただけでは即戦力にはなりません。受け入れ側の「即戦力にする」という意識が必要です。そのためには、本人の頑張りだけでなく、マネージャーやメンターの支えが必要です。メルカリではその支援までしっかり行っているのですね。