HR TREND KEYWORD 2021│人│セルフアウェアネス 鍵はフィードバックにあり。他者を通じて自己を知る 中原 淳氏 立教大学 経営学部 教授
近年、「セルフアウェアネス」という概念が注目を集めている。
自己認識、自己理解の大切さは、古くから言われてきたことであるが、なぜいま、あらためて重要視されているのだろうか。
ニューノーマル時代のセルフアウェアネスについて立教大学経営学部教授の中原淳氏に聞いた。
リーダーに必要な自分を認識する力
「セルフアウェアネスとは、『自己を認識する』ということなので、概念としては難しい話ではありません。ただ実際にそれを達成するのは、ものすごく難しいことです。なぜなら、自分のことはよくわかっているようで、一番わかっていないものだからです。私たちは自分の顔ですら、鏡がなければ自分で見ることができません。同様に、自分が認識している自分とは別に、他者という鏡を通じてしか認識できない自分があり、そこにはどうしても、ズレが生じます。そのズレを補正しながら、自分を正しくとらえていくことの重要性が高まってきている、ということなのだと思います」(中原氏、以下同)
いま、「セルフアウェアネス」を意識すべき理由について、中原氏はまずこう語る。
そして、セルフアウェアネスの重要性は、リーダーシップの文脈で語られることが多い。スタンフォード大学経営大学院の顧問委員会75人に対して「リーダーが伸ばすべきもっとも重要な能力は何か」と尋ねたところ、もっとも多く挙がったのがセルフアウェアネスだったという調査結果もある。リーダーにとってなぜセルフアウェアネスが重要なのだろうか。
「リーダーシップとは、目標に向かってチームを動かすこと、つまり、他者に影響力を行使して動かしていくことです。これを実行するときに、日ごろの言動と矛盾したことをしたり、自分の持ち味、キャラと違うことをしたりする人には誰もついていきません。リーダーは、自分の強みや弱みを見極めつつ、自分らしいリーダーシップを発揮しなければならない。だから、自己認識、セルフアウェアネスが重要だ、というわけです」
これまでリーダーシップの言説では、リーダーシップをP(目標達成)機能とM(集団維持)機能の二軸でとらえるPM理論や、「仕事志向」と「人間志向」でとらえるSL理論など、リーダーの「行動」に着目したものが多かった。リーダーはどんな行動を取るべきかが重視されてきたのだ。しかし、表面的にリーダー行動をまねたところで、その人自身と一致していなければ、リーダーシップは発揮されない。重要なのは「Doing(行動:いかに行動するか)」ではなく、「Being(自らがいかなる存在か)」であろう。
「いま、多くの組織で360度評価や多面評価が行われているのも、それが理由です。他者から見たリーダーの振る舞いやそのあり様を定期的にフィードバックしていき、リーダーにセルフアウェアネスを促そうというわけです」
また、近年注目されている「シェアードリーダーシップ」においてもセルフアウェアネスの重要性が指摘されている。シェアードリーダーシップとは、1人のリーダーがチーム全体を率いるのではなく、正解がないような課題に対して、様々な専門分野をもった人たちが集まり、それぞれの専門性を発揮してチームを前に動かしていくようなリーダーシップの在り方である。
「シェアードリーダーシップにおいても、自分の専門性や自分の行動特性についての自己認識ができていないと、他者への影響力を発揮することができず、チームに貢献することはできないのです」
長期化する仕事人生を全うするために
セルフアウェアネスは、個人のキャリア開発という側面でも重視されている。特に転職など人生の節目を迎えるにあたって、セルフアウェアネスは不可欠だ。