COLUMN1 若者のリアル 「上書きしようとする他者の圧」に拒否反応 ヘルシー志向の若者たちが職場や上司に望むこととは ボヴェ 啓吾氏 博報堂ブランド・イノベーションデザイン若者研究所 リーダー
「若者と、未来の暮らしを考える」をスローガンに掲げる博報堂若者研究所。
大学生を中心にした20~30人ほどの若者たちと定例会を実施し、様々なテーマについて議論を重ねている。
若者と共に考え、対話を重ね、言語化することで若者の本質を探るという同研究所リーダーのボヴェ啓吾氏に、
現在の若者の傾向や職場での接し方について話を聞いた。
[取材・文]=平林謙治 [写真]=博報堂提供
非連続な時代を生き抜く「分人」
かつて「新人類」なる言葉が流行ったが、若者は何も最初から“別の人類”として生まれてくるわけではなく、その変化には何らかの理由がある。「若者と、未来の暮らしを考える」をスローガンとして若者研究を行う博報堂ブランド・イノベーションデザイン若者研究所リーダーのボヴェ啓吾氏は、現在の若者の行動・価値観の背景にあるのは「明日がどうなるかわからないという不安」「多様性の尊重と個性の発揮を求められる教育」「パーソナルな情報に常時接続された圧倒的な情報環境」の3点だと話す(図1)。
「VUCAといわれる不安定で非連続の時代、コロナ禍も後押しして、暮らしも働き方も今の状況が続くはずがないというのが、若者の考えの前提にあります。ですから、非連続に対応していくために、自分自身が状況に応じて変化し続けることを大切にしています。特別な何かになるためではなく、ただ普通であり続けるためにも、外で通用する専門性を身につけたい、学びたい、成長したいという意識は強いですね。また、多様性のなかで自分の個性を見いださなければならないという教育も受けています。SNSをのぞくと同世代の活躍や暮らしぶりも目に入るので、自分はこれでいいのかと苦しみや葛藤を抱えながらも、意識して自己肯定感を高めようとしている傾向があると思います」
ボヴェ氏自身は、Z世代の前のY世代、いわゆるミレニアル世代にあたる。バブル崩壊後の日本経済の急失速や環境意識の高まりを背景に、成長・拡大を求めるより、家族や友人、地元、日常の暮らしなど、手に負える範囲の身近な幸せを守る意識が強い「定常化の時代」に育った世代だ。
「Z世代は、ミレニアル世代の感覚も踏襲しています。しかし、前提となる時代環境が『成長しない』から『何が起こるかわからない』に変わったため、いまあるものを守っていくだけでは安心できません。自分自身が常にシフトできる状態でいると同時に、仕事も居場所も交遊関係も、1つに固定化するより複数に分散したい。変化やマルチ化への志向が強いですね」
かつての若者は、「本当の自分」という考え方にともすると固執した。職場での自分も家での自分も、その場で仮面を使い分けているだけ、本当の自分は別にあるのだと。しかし、それは終わりのない自分探しにつながりやすく、まして現代の非連続な状況下では、「本当の自分」という一貫性に縛られることでかえって生きづらくもなるとボヴェ氏は言う。
「だから、いまの若者には『本当の自分』という感覚はあまりないようです。職場での私も、家族や友人といるときの私も、どの私も私だと。複数の人格のポートフォリオが自分だという考え方を、作家の平野啓一郎氏は『分人主義』と表現されているのですが、まさにそうした考え方をする若者が多くなっていると感じます※(図2)」
仕事で失敗して自信を失っても、趣味のコミュニティーへ行けば認めてもらえる。本業以外に副業があれば失業のリスクが下がるだけでなく、他者と違う視点も生まれる。自分をマルチに分けた方が、自分を支えやすい時代なのだろう。